写真家 西野壮平さんトークに参加して(1)

福井県あわら市にある金津創作の森美術館で、2023年1月28日(土)~3月5日(日)まで、写真家・西野壮平さんの展覧会『アートドキュメント2022 西野壮平 写真展 Walk With Me』が行われました。

会期中の1月28日、西野さん自ら説明するアーティストトークがあり、私(齊藤)も参加してきました。トークや作品の感想を交えてレポートします。

イタリアの河の作品 『IL PO』 2018年 インクジェットプリント・紙

イタリアにある河の作品 『IL PO』2018年 インクジェットプリント・紙

(西野さんコメント 以下同)1本の川を1カ月かけて上流から下流へ歩き、川沿いの風景を撮影したもの。山から河口に向かっていく様子が分かる大型の作品。河口にはベネチア(イタリア)の街が写っている。この写真(=組写真)の対面に個別の写真を貼り出した。

『A Journey of Drifting ice(MAgadan)』2019,『A Journey of Drifting ice(知床)』2019,

流氷の作品 (左)『A Journey of Drifting ice(MAgadan)』2019年 (右)『A Journey of Drifting ice(知床)』2019年

流氷を撮影するに当たり「流氷とは何か」を考えた。「流氷とはどこから来るのか」と調べると、対岸のアムール川からだった。アムール川の水が河口で冷やされて氷になり、流されて北海道に到達する。「流氷が生まれる場所はどういう所か」とロシア側で撮影し、到達する場所を北海道で撮影した。

伊豆の作品 『Waves Part1(伊豆半島)』2020年 『Waves Part2(伊豆半島)』2021年 インクジェットプリント・紙

コロナ禍で歩くことを止められたことは、自分自身を見つめなおすきっかけにもなった。歩くという身体性や、歩くことで地図ができる自分の作品のこと―自分は「歩けば世界を獲得できる」という感覚を持っていたのだ。そしてそういう作品作りをしてきた。しかし、移動ができなくなった時、自分の創作活動(の仕方)をどう乗り越えるか考えた。

その時制作したのが『Waves Part1』だった。西伊豆(静岡県)にあるアトリエ近くの沿岸の風景である。駿河湾はだいたいが穏やかだが、この作品では荒波に仕上げた。押し寄せる波を撮り、「目の見えないこの状況はいったん何なのか」という心情を表現した。最初の緊急事態宣言下で制作したものだ。

『Waves Part2』は2回目の緊急事態宣言の時に制作した。『Waves Part1』と比べて海は穏やかになっている。この時は「海の向こうに何があるのか」という、多少なりとも希望を持たせた制作になった。

左が『東海道』、右奥が説明しなくても分かりますね。エベレストと富士山

東海道の作品 『東海道』2017年 コロタイプ印刷・和紙

東海道の写真は、巻物のように全長34mある。そのうちの13mだけ展示している。この10年前に関西から東京へ歩いた経験があり、「10年という月日と時間は自分にとって何を意味するのか」ということでもう一度歩いた。歩くだけでは作品にならないので『東海道五十三次』(歌川広重)をベースに宿場町を巡って歩いた。
(注:金津創作の森美術館・土田ヒロミ氏にも『東海道五十三次』をモチーフにした写真作品がある)

エベレストの作品 『Mountain Line Mt.Everest』2019年 インクジェットプリント・紙

エベレストの遠景ではなく、登山をする時に見た風景を撮影したかった。「山に対し、誰が何を思って向かうのか」「どのように食べて暮らしているか」といったことを撮影したかった。カラー(多色)にしたのは、森林限界を表現したかったからである。写真にして俯瞰すると、植物が生えない場所の生命の線(ライン)が見えてくる。緑が突然なくなる境界線を可視化したかった。

富士山の作品 『Mountain Line Mt.Fuji』2021年 インクジェットプリント・紙

古来から人は富士山を描いている。私は『富士曼荼羅図』を想定して作成した。浮世絵にもある手法だが、奥行きを出すため風景の前に雲をあしらった画面作りにした。

本展合わせて制作した『北陸道』を解説中。上部が吉崎御坊、下部は京都です

西野さんの話を聞いて

「歩いて世界を獲得する」という言葉が強く印象に残りました。自身の心情を、写真1枚でなく何層も重なった波として表現していた『WAVESⅡ』のように、単なる地図写真ではない「西野流」というものが確立していると感じます。

「世界を手に入れる」とはどういう行為を指すのでしょうか。そしてそれは何を意味しているのでしょうか。

「世界」とは極めて抽象的な言葉であり概念です。お金で測る人もいれば、海外の風土として感じる人もいる。友人と語らうことで見通す人も、物事に置きかえて感じる方もいます。西野さんにとって世界とは、「歩くこと、そして撮影すること」なのでしょう。西野さんは、自分ではない何かとのつながり、つまり他者の存在を歩くことで実感していく人でした。「自分の作品は内省的」と評されていたのもよく分かります。

流氷のアップを撮影した作品と展示されている空間は、鑑賞したのが冬だったからか寒さと気味悪さが伴うものでした。「アップで見た時と遠くから見た時とでまったく表情が違う」と西野さんが話していた、まさにその通りの写真。私は流氷をテレビでしか見たことがなかったので、有機的で生き物のような流氷の姿にとても驚きました。想像していた神秘的な美しさではなく、荒々しく仄暗さがあり、命を宿している氷の生き物のように思われる作品。雪がそこはかとなく気持ち悪い、という感覚は、雪国に住む人なら細胞レベルで分かっていただけるはずです。(2023年1月28日)

展覧会情報

アートドキュメント2022 西野壮平 写真展 Walk With Me
https://sosaku.jp/event/2023/art-document/

2023年1月28日(土)~3月5日(日)
時間 10:00~17:00(最終入場16:30)
会場 金津創作の森美術館 アートコア
休館日 月曜日観覧料一般 600円(400円)、65歳以上・障がい者 300円、高校生以下 無料、障がい者の介護者(当該障がい者1人につき1人)無料

タクシー割
観覧券購入時、当日のタクシーレシート、領収書をご提示ください。観覧料が半額になります。(一般:600円のみ)
1回限り4名様まで割引
あわらぐるっとタクシー(土・日・祝日のみ運行)、あわら乗合タクシー(平日と土曜日運行)も適用となります。
利用証明ができるものを持参ください。
他の割引等との併用はできません。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.