カウンターの向こうに飾られている作品は、橿尾正次(かしおまさじ)さんによる実験的な銅板画。10年前に制作した1点ものだという。「学生たちと一緒に順番にプレス機を使ったので枚数を多く刷れなかったこともあって。そのかわりどんなことができるかな、どんなふうにしようかな、と毎日考えながら過ごしていてね」と橿尾さんはゆっくり話し始めた。
初公開の銅版画は、オーストリアのGERAS修道院芸術教育センターで制作した。副題にある「コラグラフ」とは化学薬品を使わない銅版画の技法の一つ。京都精華大学版画分野の学生たちがコラグラフの夏期海外ワークショップに参加すると聞いて、橿尾さんも志願して渡欧。現地では同大教授で版画家の長岡国人さんの手ほどきを受けた。
アルミ板を切り抜いて形をいくつも作ったり、板をひっかいて傷をつけたりしてエッチングプレス機で刷るという、至ってシンプルな版画制作だったという。技法を身に付けるというよりも「何を作るか」に気持ちが向いた橿尾さん。
「海外でワークショップに参加し、とても小さな町の修道院という場所で西洋の版画用の紙を使い、自宅ではできない大型の作品を作る」という非日常の中での制作。「1~2点しかできないので実験的な意味合いが僕の中にあった」と振り返る。
“実験的”という発言にあるように、新鮮さが作品に現れたのだろう。5点並んだ中にある2つの円の作品は「あまり僕らしくない色とかたちなんだけど、僕の持ち味を外してもいないもの」ができた」。円の両脇にある作品はどれも抽象的な形で、これまでの橿尾作品に親しみのある鑑賞者からは「橿尾さんらしい」という声が寄せられた。
1970~90年代に国内外問わず出かけ、そして今も現役で発表を続ける橿尾さん。「どんな表現になるかな」と学びの意欲を忘れず学生たちとワークショップに参加する。自分の持ち味と向かいあい、場があれば海外へ。色とかたちを作り続けたあの頃の自分、というべき昔の版画作品も同時に展示してあった。橿尾作品の新旧の比較を楽しむ場でもあった。
橿尾 正次 (かしお まさじ)の世界展 -立体紙とコラグラフー
会期 2018年7月1日(日)~7月31日(火)
ギャラリー喫茶「サライ」
http://mike.co.jp/sarai/201807.html
作家紹介ビデオ:橿尾さん自身が本展について語る動画あり
サライのホームページを管理するYokohama Mikeさんの制作
https://www.youtube.com/watch?v=QU3NG8LY8K8