「大きな一枚の画布から、匂いを漂わせたい」-福井大学院生・福田裕理さん

かわいらしい、優しい、果物の絵。大きな画布に描かれた果物は、ふわっと浮遊感を漂わせています。しかしよく見ると垂れ下がる液体、本当に果物なのか、何なのかと疑いが。かわいいだけではない、何かを秘めている…と感じた私は、福井大学の3号棟の一室で制作をしている福田裕理(ふくだ・ひろみち 福井大学 連合教職開発研究科 教職開発専攻2年)さんを尋ねました。

撮影/たとり直樹

―生まれは福井県でも南のほう、嶺南地方の小浜市ですね。高校生から福井大学の美術科に進学した流れを話してくれますか?

福井大学へ進学しようと決めたのは若狭高校3年生の時です。美術部に所属していましたが、がっつり絵を描くとか、大学受験に向けて絵を描くとか、そんなことはなくて自由に制作を楽しんでいました。絵を描き込んでいく水彩画が面白かったですね。小浜市美術展に入賞したこともあります。

あるとき外国人の美術作家さんが来校され、話を聞く機会がありました。その外国人の方に「君の絵が一番いいね」と評価をいただき自信の一つとなりました。

高校3年生の時、福井大学で開催されたデッサン教室に参加しました。「あ、制作できそうだ、ここならやらせてもらえそうだ」と思ったのが志望するきっかけ。県外への憧れや上京して絵を学びたい!という欲はありませんでしたね。都市への抵抗があったんです(苦笑)。

―入学してからは?

正直、学部1年生の頃は、大学生活に慣れるので精いっぱい、気持ちの整理も大変でした。ただ言えるのは、僕に高校で描いていた風景画の描き込みの下地があったことは確かで、それはトレーニングになっていたと思っています。学部2年生の時に、浅野桃子先生と出会い、果物をモチーフに大きな画布に描く指導をしていただきました。

大学の一室にて、製作途中を撮らせていただきました。梨かな?リンゴかな? 撮影/たとり直樹

―果物を選んだ理由を教えてください。

とげとげしていない果物に魅力を感じました。最初はいろんな果物を並べて構図を作りました。光を当てると、いや光が当たると、色や影に表情が出ます。テカリ、ハリ…描いていて気づくことも多くありました。最初に描いた複数の果物(りんごや桃、梨など)の組み合わせに手ごたえを感じて、果物をモチーフにしました。

―もう少し詳しく、果物と福田さんについて話してくれますか?

果物は市場に出回っているものです。いつでもどこでもある普遍性があって、どこかで育っている、生まれているものです。果物を手にすると、自分が秘めている想いを含んでいるような気がしました。単純に描いていて心地よいものでもあります。

―普遍性があっても、生ものなので目の前にして描いていると腐ってしまうのでは?

そうなんですよね。制作によっては4カ月かかるものがあるのでさすがに持ちません(笑)。そのときは僕の記憶の中で描き込んでいます。周囲から「腐っていく様子を描いたら?」と言われたこともあるのですが、腐っていく様子を描きたいわけではないので…。

「大きい作品があってこその小作品です」とこだわり。自分でも気に入っている作品ですって。撮影/たとり直樹

―福田流の果物の描き方、を教えてください。

まず輪郭をざっくり描いて、乾いたら上からさらに色を重ねていく。色の揺らぎが生まれてきてそれを僕は気に入っています。薄い色を重ねて、色をかすめる、透けさせる行為が好きなんです。

キャンバス(画布)の場合は、ワントーン暗めになるんですよね。それでいて色が乾くと薄くなる。色がなかなか乗らないので四苦八苦しました。

画材はアクリル絵の具を使っています。リンゴを描くときは赤を大量に使うので、画材店さんの絵具を買い占めるほどです。

―リンゴからは絵の具が垂れてきていますね。リンゴにかすれた跡がみえます。

滲み出てくるのもいいなと思って、上から水を吹き付けてわざと垂れさせています。ガーゼでこすったり、上からドットの加工を施したりしています(ドットのシートをかぶせて上から吹き付ける)。ドットを入れたのは、余白が多いので遊べないかなとやってみました。

垂れ下がる液体がたまりません。背丈以上もある画布に描くのは体力がいります。撮影/たとり直樹

―果物をはっきり書かないのはなぜですか?

僕が果物を見たときに感じている“フィルターがかかったような”印象にしたくて。人は輪郭(外観、外見)をほめたがるけれども、実際普遍的なものこそ輪郭だけで見ると怖いところが(人にも)あるよ、というメッセージを込めています。

―果物を大きく描くのが特長ですね

匂いがするような絵にしたいんです。匂いが伝わるような絵にしたい。小さいサイズの絵だと、先に果物そのものが目立ってしまい、存在感が先に出てしまいます。大きい画布に大きな果物の絵で、そこにない匂いを鑑賞者に感じさせたいんです。

―2月は続けて発表の機会がありますね。がんばってください。制作中に取材を受けてくださり、ありがとうございました。

赤い作品に、黒のスタイルが映えますね。撮影/たとり直樹

「果物の匂いを漂わせる」嗅覚に訴える表現への挑戦をしていました。学部2年生の時の作品はこじんまりとしていて、果物がたくさん並び、かわいらしさが残るものでしたが、そこから画布をはみだすように対象物を絞り込み、今のような形になっていったようです。もっともっと抽象に寄るのでしょうか、それともモチーフが変わるのでしょうか、今後の作風が楽しみな作家さんです。

福田さんの言葉の中にあった「秘めている何か」「普遍性と輪郭」とはなんでしょう。もっともっとお聞きしたいことばかりでした。作家とは何度か対話やインタビューを重ねてその「何か」を引き出し言語化できればと思いました。

福田さんは画布に下処理を施さず、ロールで購入して自身の思うサイズにカットして作っています。思ったよりも大きな画布、お部屋のタペストリーにもいいですよ。

※本記事の情報は2021年12月取材時のものです。

展示予定

福井大学教育学部美術専攻 卒業・修了制作展 2022
2022年2月2日(水)~2月6日(日)
9:00~17:00(最終日は15:00まで)
入場無料
福井県立美術館
〒910-0017 福井県福井市文京3-16-1
電話:0776-25-0452
URL:http://info.pref.fukui.jp/bunka/bijutukan/bunka1.html

若手美術家育成事業「ふくいアートアタック」 
2022年2月7日(月)~19日(土)
11:00~18:30(会期中、休廊なし)
※初日は13:00~、最終日は16:00まで
入場無料
ギャラリー暁 
〒104-0061 東京都中央区銀座6-13-6 商工聯合会ビル2F
電話:03-6264-1683
URL:https://www.gallery-akatsuki.com/

プロフィール

福田裕理 (ふくだ・ひろみち)FUKUDA Hiromichi

インスタグラム  https://www.instagram.com/fukuda_hiro…

1998.1 福井県小浜市生まれ
2016.3 福井県立若狭高等学校卒業
2016.4 福井大学教育学部入学 初等教育コースに所属しつつ美術を専攻
2019.1 第7回福井大学美術科在学生・OB・OG有志展「i」福井県立美術館 
2019.6 福田裕理・蟻塚知都 二人展「記と刻」HOMME/HAI Studio(福井県福井市)
2020.2「福井大学美術科 卒業・修了制作展2020」福井市美術館
2020.3 福井大学教育学部 卒業
2020.4 同大学教職大学院 入学 
2020.11 「Arts Happen!」(※レストランでの展示企画)レストランジャルダン(福井県福井市)
2021.1 第8回福井大学美術科在学生・OB・OG有志展「トンガリ」福井県立美術館 
2021.3 蟻塚知都・福田裕理二人展「歪んで消エテ」鯖江市まなべの館
2021.10 個展「Filter」熊川宿若狭美術館(三方上中郡)
2021.10 嶺南アート展「明日を担う若手作家による若狭路美浜現代美術展」なびあす(福井県三方郡)
2022.2 「福井大学美術科 卒業・修了制作展2022 -unknown-」福井県立美術館
2022.2 「個展-Outer layers- 福田裕理展」ギャラリー暁(東京都・銀座)

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/column/art_view-somewhere/

Fu2022年2月号で紹介しました。

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.