道行く人が振り向く照明ディスプレイ。その影にあるフォトストーリー-大村でんき・大村翔一さん

JR福井駅前を歩いていると、高架近くにある電器店のディスプレイが気になりました。

近づいてみると、フランク・ロイド・ライトやアルネ・ヤコブセンがデザインした照明が置かれていて、その合間にはバウハウスのポスター、外国の街並みを写したモノクロ写真が。単なる電器店ではなさそうな店主のセンスが気になり、このディスプレイを担当した大村翔一さんにインタビューを申し込みました。

撮影:飛田圭一

聞けば、大村さんは東京でカメラマンをしていたことがあるそう。店頭に飾ってある写真は自身が手がけた写真だそうで、店内の一角にも飾られていました。明るいポップが並ぶ「まちのでんきやさん」の中にモノクロの写真がかけられ、そこだけキュッと引き締まったいい感じの異空間となっていました。

大村さんとカメラの関係について話を伺いました。高校卒業を機に、カメラを手に東京の写真専門学校へ入学した大村さんは「トレンド最先端の街で、クリエイターの人に学べる専門学校の授業はそれはそれは刺激的でした。写真はかっこいい存在でしたし、自分は賞もいただいて…」と振り返ります。

一方で焦りもあったそうです。

「撮影をしていないと、何者でもない、という気持ちになるんです。だからなのか、3カ月に1回はギャラリーで発表をしたり、街に出て何かを撮影したりと夢中でしたね」。そのうち海外へ気持ちが向かい、2カ月ほどヨーロッパを巡る撮影旅行へ。海外の街で大村さんはひたすら「人」を撮ります。

「朝、街に出て、撮りたいと思う人に声をかけてジェスチャーで伝え撮影許可をもらってパシャリ。当時はまだフィルムだったので、日本に戻ってから手焼き現像をしました」。その時の写真は今も大切に保管されています。

20代前半、旅先で撮影した写真 撮影:飛田圭一

東京から福井へ戻り家業の電器店で働くことになった大村さん。眠れない夜には手にカメラを携え、深夜のドライブを繰り返します。この頃の写真には、学生時代に撮影していた「人」は写っていません。

「人の気配があるようでないもの―を撮りたいと思ったんです。どこかの風景のようであり、僕の心象でもあるものを」

撮りためた写真には『雑景』というタイトルを付けました。しかし、家業に慣れて忙しくなるにつれ、カメラを手にすることが少なくなっていったそうです。

歩いている方は実は大村さん。モデルになってもらいました。撮影:飛田圭一

大村さんは現在、電気工事を請け負う傍ら照明設計の仕事も受けています。

「施工するお家に伺うとどこも同じ照明器具なんです。そこに違和感を持ちました。設計士や建築家の手が入る家づくりの中で、施主が自分の意思を落とし込めるのが照明ではないかと思うんです」

電気工事の腕を持ち合わせ、照明アドバイスという側面から家づくりをサポートする大村さん。デザイン好きでもある大村さんは、私物のデザイナーズ照明と写真を店頭に並べました。それが今の店頭ディスプレイです。

「日立の看板やら造花やら、店内に入ればCDが並んでいたりするけれど、それも含めて“まちのでんきやさん”で、それが“おおむら”なんだと思ってもらえればいい」

撮影:飛田圭一

上方右から(購入希望は大村さんまで)

  • レイ・パワー「LINK」LZF(ルシフェル)社
  • ベルトラン・バラス「Here Comes The Sun」1970年
  • アルヴァ・アアルト「A331 BEEHIVE」1940年発表
  • アルヴァ・アアルト「A330S GOLDEN BELL」1937年発表

下段右から(購入希望は大村さんまで)

  • ヴェルヘルム・ヴァーゲンフェルト「Bauhaus Lamp WAGENFELD LAMP WA24」1924年発表
  • ハンス・アウネ・ヤコブソン「JAKOBSSON LAMP」1957年発表
  • フランク・ロイド・ライト「TALIESIN」1933年発表

お話を伺って

大村さんはサラリとこう話しました。「私生活がうまくいっていない時ほどいい写真が撮れる」と。

とても詩的な発言でドキッとしました。ご本人にとってつらくどうしようもない時期だったと察しますが、カメラを構える時はうれしさもつらさも通り過ぎ、ただただ創作に没頭できる一瞬だったのでしょう。

自分自身の作品を見て「いい写真」だと言うこと。これは、自分を客観的に見ないと言えないことだと思います。過ぎ去って振り返って、「いい写真だ」と自分に声をかけられる、本当に思い入れのある写真だったのだろうと私は感じました。

大村さんの私的な写真集『雑景』も見せてもらいました。夜、いや夜中に撮影したからか、もちろん人がいない写真です。

だけど、人の気配はありました。そこはゴーストタウンではないのです。昼にいる人たちが夜に写っていないだけの1カット。現実にはいない人たちを、あたかもいるような気配で撮る。そもそもいないのだから、いない場所で撮る。だけど気配は残っている。つかめないけれど写真には残るように。

「不思議」というかわいらしい言葉では表現しきれない、不穏さと危うさと、揺らぎが写っていました。

大村さんのお姿は手の表情で想像ください

或る場所

大村でんき(大村電機株式会社)
福井県福井市中央2-1-43
090-9763-1942(大村)
照明についての問い合わせは携帯まで
営業時間 9:00~19:00
定休日 日曜・祝日

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/column/art_view-somewhere/

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.