箕輪(みのわ)マスターにアート作品の取材のお話を向けると「僕はこれを取り上げてほしいな」と指をさした先にあったのが真っ黒なお面でした。まるで守り神のようなたたずまいのお面。「東北の釜神様なんですよ」とマスター。そこから「なぜこのお面がこの店に飾られるに至ったのか」を聞きました。
-真っ黒なお面をどうしてここに飾ることに?
確か東日本大震災の頃だったかな。雑誌を見ていたらこのお面の記事を見つけました。お面の工房が被災して続けるのが難しい状態で、なんとかこの伝統工芸を残そう―そんな内容が書かれていたように記憶しています。僕は震災に対して、単なるお金の寄付よりも、誰かのためになり、結果的に僕の手元にも残るものなら、それがいいと考えていました。このお面はかまどの神様とも書かれていたので、焙煎機を扱う珈琲店にはぴったりだとも思って購入を決めました。
-雑誌の通販企画で購入したのですか?
いえいえ、そうではありません。お面の記事に連絡先が書いてあったので、直接『工房釜神』へメールしました。記事を読んですぐメールしたような気がします。お面の表情がすごく僕に迫ってきて「これだ!」みたいなインスピレーションがあったのを覚えています。今連絡しなくちゃ、ぐらいに。
-こういう買い物って勢いですものね(笑)。連絡してすぐに返答がありましたか?
ええ、『工房釜神』の沼倉節夫さんからお返事をいただきました。ひとつひとつ手作りだから時間がかかることや、既製品ではないのでお面ごとに顔の表情が違うことなどを説明いただきました。お面に使う木を選べると言われたのですが、僕は雑誌で見たお面の表情が良かったので「その木を使って近い表情のもので」とオーダーしました。
-届いた時、開封した時のことは覚えていますか?
覚えています。すっごい殺気というか霊気というか。とんでもないものがうちに来ちゃったなと。お面からバシバシ感じるものがありました。これは大事にしなくては…と思って。木田神社(福井市西木田)でお札を毎年購入して飾って今に至るという感じですね。
-マスターは以前「お面が好き」と話していましたね。
民芸チックなものに惹かれるんですよね。旅先のフランスや京都で見かけて購入したこともあります。元をたどれば祖父が天狗やキツネの面を持っていて、家じゅうに飾ってました。幼心におそろしく怖い思い出ではあるんですが、それがきっと強烈だったんでしょうね。大人になって自分が買うなんて(笑)。
釜神様とは、宮城県北と岩手県南の限られた地域に伝わる神様で、火除けや家内安全の神様として台所やカマドの上に飾られてきたものです。釜神様のお面を作る人が途絶えようとしていたときに、沼倉さんが脱サラをして弟子入りをして今につないでいます。
「よっぽど素敵な神様なんでしょう」と思いきや、調べると「ちょっと待ってその殿方…」と言いたくなるいわれの持ち主でした(詳細はお調べくださいませ)。
仏像のようでもあり、迫力もあるのにただ怖いだけではない。仁王像のような気高さというよりは、あらぶった田舎の野太さを感じられるお面。畏れを抱かせるだけでなく、優しさや愛嬌が垣間見られる表情。どしんとかまえて、今日もお店を見守ってくれています。
或る場所
自家焙煎 cafe notes(カフェノーツ)
福井県福井市花堂南1-9-16
0776-33-1880
営業時間 10:00~18:00
定休日 木曜
駐車場あり
Instagram https://www.instagram.com/cafenotes/
工房釜神
宮城県宮城郡松島町高城字町118
http://www.kamagami.sakura.ne.jp/
本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆