「建築、都市、地域、を学ぶ場にふさわしい絵」ー横町スタジオ管理人・三浦紋人さん

福井県大野市のまちなか。てくてく散歩していたら、ある作品を見つけました。鈎型の路地をくねくね曲がって進んだところにある、ガラス張りのお店の奥。近付いて見てみるとオーストラリア・シドニーにあるオペラハウスの版画です。「なぜここに?」と思ったものの鍵がかかっていて入れません。

日を改めて訪ねたところ、空き店舗をリノベーションして出来たという、くだんの場所『横町スタジオ』の管理人・三浦紋人さんが応対してくださいました。そこで三浦さんにインタビューです。

横町(よこまち)スタジオは福井県大野市と関西大学との連携で出来た、ふとん店をリノベーションした地域拠点です。

大野市は環境省選定『日本の名水百選』の『御清水(おしょうず)』のあるまちとしても知られます。両者は2017年、御清水など土木インフラの調査研究のフィールドとして連携協力協定を結んだのを機に交流を加速。大学は市の協力を得て空き店舗だったふとん店を活動拠点とし、建築学部の学生がリノベーションしたスタジオに毎年、都市の在り方を研究する学生が滞在します。

現在は、研究拠点としてだけでなく大野高校や地域の皆さんとの交流の場にもなるなど、ひらかれた空間になっています。

キムラリサブロー『シドニー』 制作年不詳・シルクスクリーンAP 撮影/長谷川和俊

スタジオの雰囲気を見て、大野市の美術愛好家団体『おさんぽアートミュージアム大野』のかたから「絵を飾りたい」と申し出があったとか。スタジオの皆さんは二つ返事でOKを出しました。

三浦さんは「持ち込まれた作品がとても素晴らしかった! 「建築や都市のことを勉強されている学生さんたちだから」と、研究にぴったりのモチーフを描く作家の作品を飾ってくれたのです」と話します。飾られた作家は大野にも深いゆかりのある、キムラリサブローさん。

オーストラリア・シドニーのオペラハウスの作品、都市を真上から見たような摩天楼の天を指すような作品…キムラリサブローさんの絵はどれもスタジオの雰囲気や学生たちが究める道にマッチしています。

絵を飾ったところスタジオを訪れるかたから多くの反応があったそうで、「スタジオの雰囲気がかなり変わったね」という声もあったとか。三浦さんは「建築の設計ではたいてい、どこに何を飾るかと考えもしないし、計画にも入れないものです。私も“絵を飾るだけでこんなにも空間の雰囲気が変わるんだ”と新鮮な体験を得ることができました。大学生の心にも何かしらの驚きや癒やしをもたらすのではないでしょうか」と話してくれました。

学生独特のリフォーム術の中にキムラリサブローさんの絵が映えます。撮影/長谷川和俊

当初の展示作品は2枚でしたが、現在は4枚飾られています。横町スタジオは水曜日午後をなるべく開けるようにしているそうなので、機会があればぜひ訪れてみてください。

道に迷って行き着いた先に出合った横町スタジオ、そしてキムラリサブローさんのオペラハウスの絵。思い返せば私とその作品との出合いは、2020年のコロナ禍真っただ中の頃。緊急事態宣言が解除されたものの道には人も車も少なく、寒々しいとはまさにこのこと…という時期、大野市へ仕事で向かった時のことでした。

美術展や建築を見に行くことが好きで、あちこち出かけていたこれまでの記憶が幻のように思えていた頃。オペラハウスの作品を見て、「そうだ、こういう建築があったな」「オーストラリアの美術館はまだ行ってないな」と自分の記憶を反芻しつつも、「この建築って本当にあるんだろうか」と疑いの気持ちが出てきたのも思い出します。

このまま新型コロナの束縛が続き、国外はおろか県内だけで過ごすようになったらどうなるんだろう。海外という概念自体が私の生活には関与しなくなり、そもそも海外があったのかどうかも分からなくなるのではないか…そんなところまで気持ちを突き詰めてしまいました。

キムラリサブローさんが描いた都市。制作された1970~90年代は日本は海外との交流が盛んで、誰もが海外への憧れを抱いていたと思います。それが空のうねりとなって表現されているのかもしれません。

しかし2020年のあの時、私はこの絵を疑いのある気持ちで観ていました。子どもたちが大きくなった時、この絵は遠いどこかの知らない街の、あるかどうかも分からない風景になるのではないかと。1枚の絵が、時代によってまったく違う意味を持ち、観る者に違う意味を感じさせるという現実。価値観の変化をまざまざと見せつけられ、キムラリサブローさんの作品を見直すきっかけになりました。

或る場所

横町スタジオ
福井県大野市日吉町1-7
主に水曜日午後に開放。
インスタグラム https://www.instagram.com/onoyokomachistudio/

外からものぞくことができます。私はここに惹かれて中をのぞいてしまいました。撮影/長谷川和俊

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/column/art_view-somewhere/

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.