アルバムのチカラ-『浅田政志写真展 Family Photo Tree』トークショーより

金津創作の森美術館(福井県あわら市)で2020年3月8日まで、写真家・浅田政志さんの展覧会『浅田政志写真展 Family Photo Tree』が行われています。

第34回木村伊兵衛写真賞を受賞した代表作『浅田家』や、「写真家としての原体験」という写真入り年賀状、専門学校時代の卒業制作など計189点を展示する同展。会期初日(2020年1月25日)には、浅田さんによるトークショーも行われました。

約2時間のトークショーで会場内7パートをじっくり解説した浅田さん。その中から、映画『浅田家!』(2020年10月2日公開予定)の原案にもなっている「アルバムのチカラ」のパートのエピソードを紹介します。

「オリジナル」の重みを感じながら進めた写真洗浄

「アルバムのチカラ」は、東日本大震災の被災地で活動する写真洗浄ボランティアを取材した写真を展示しているパートです。津波で大量に流れ出た写真アルバムを町の人たちが「大切な思い出だろうから」と拾ってきて、洗浄して持ち主に返すというボランティア活動です。

あの大震災が起きた時にニュースで津波の映像が流れて、日本中が被害の大きさを共有して胸を痛めた方も多かったと思うんです。世の中では「自分たちで何かをしよう」「ボランティアをしよう」「応援しよう」というムードも高まっていました。

僕たち写真家も地震の後に集まって、「写真でできることがないか」とか、「自分たちの力を生かして、苦しんでいる人たちの励みになれないか」という話し合いをしたんですけど、話しても話しても何もできないという結果になるんですね。

住むところも何もかもなくなって食べることさえ大変な時に、カメラを持って写真を撮ってというのもぜんぜん違うなと思って。写真にできることはないんだな…と、無力感みたいなことも覚えながら生活していて、「まずはちゃんとボランティアに行きたい」と考えて岩手県の野田村という所へ行ったんです。

ボランティアセンターへ登録に行って担当することになったのが、支援物資の仕分けでした。物資を必要な方へ届けるために、分かりやすく袋に仕分ける作業を手伝ったんです。作業が終わって報告のために友人と役場まで歩いて行ったら、役場の前に写真がたくさんあって、それを洗っている青年がいたんですね。

写真を洗っている人がいるという話はニュースで何となくは聞いていたんですけど、どんなものかはぜんぜん分かっていなくて。「写真洗浄のボランティアってこれなんだ」と。たくさん写真があって、青年が寒い中で洗う作業をしていたんで声をかけさせてもらったんです。名前を聞いたら小田くんという、野田村の写真洗浄を始めた青年でした。

彼はもともと野田村出身で、当時、学校の先生になるために千葉県に住んで勉強をしていました。地元から離れている時に地震が起きて、自分のまちが津波の大きな被害を受けているということをニュースで知って、居ても立ってもいられなくなったそうなんです。

「少しでも地元の力になれるように」という思いで、地震の2、3日後にバイクで野田村へ向かおうとするんですけど、燃料が途中で切れてしまったり、道が寸断されていて通れなかったりいろいろな苦労があったと。1週間くらいかけてようやく地元に着いたんだそうです。

でも、小田くんが着いた時はまだ地震から日が浅くて、1人が行ってできることはあまりなかった。「地元のために」という思いで来たけれども、力になれないという無力感を彼なりに感じて、地元のまちをトボトボ歩いていたら写真が置いてあって。それがたまたま知ってる人の写真だったので、その方に届けたら喜ばれたんですって。

その経験が元で、「これなら自分にもできるかもしれない」ということになった。話を聞いたら、自衛隊の方が救出活動をするとき、写真が見つかったら軒下に寄せておいたらしいんですよ。自衛隊の方も誰かに命令されたわけじゃなくて、「写真はよけておかなければいけない」という気持ちになったようで。

といっても、小田くんは写真が専門ではないので、「拾い集めた写真をどうしたらいいだろう」と富士フイルムさんへ電話したんだそうです。そうしたら、水で洗ってもいいということが分かった。彼が1枚ずつ洗い始めたところ、手伝う人が出てきていたという状況だったんですね。

そこで僕もお手伝いさせてほしいと思って、写真洗浄のボランティアをさせてもらうことになりました。最初は写真がこういう状況なんですね。 水の中にはバクテリアがたくさんいるんですって。

©︎浅田政志

写真の表面をコーティングしているゼラチンはバクテリアの大好物で、その活動によって写真がどんどん腐食して見えなくなっていくので、一刻も早く乾燥したり洗ったりしないといけないそうなんですね。放っておくと画像が崩壊していくので、丁寧に1枚ずつ取り出して洗っていくんです。

ダメージの程度によってちょっと触れただけで画像がなくなったり、手でゴシゴシやっても大丈夫だったりとか差があるんですけど、ネガがないのでこれがオリジナルだろうという1枚なんですよね。自分のミスで画像が確認できなくなったり顔の像がなくなったりしたら責任が重いので、丁寧に時間をかけて作業を進めないといけないんです。

写真の持ち主特定に、顔認証システムも活躍

洗った後、持ち主の方にどう返すかも悩みました。写真が僕たちの生活にこれだけ普及して初めての大きな津波だったので、いろいろな意義ある写真が流されてしまったというのも初めてだと思うんです。返し方のノウハウがまったくなくて、ゼロからのスタートなんです。

野田村だけじゃなくて、(岩手県)大船渡市や(宮城県)気仙沼市など津波被害があったたくさんの地区で、「写真だけは自分たちで救おう」と誰に言われたわけでもなく立ち上がっているんですよ。それぞれのまちでそれぞれが工夫を凝らして、オリジナルの写真を持ち主に返すための努力をされているんですね。

その様子を編集者の藤本(智士)さんと2年半かけて周った記録が『アルバムのチカラ』という本になっています。今は絶版になっているんですけど、もう一度多くの方に読んでいただきたいという思いがありまして、今年中に再版したいと考えています。その本に関する話もさせてください。

「写真保管室」って大きく書いてある場所の写真です。ここはもともと野田村の図書館で、被害に遭って窓も抜けている所なんですけど、その場所を借りて写真を展示しています。

©︎浅田政志

洗浄済みの写真はもともと箱みたいなものにしまってあって、取り出して見るような形だったんです。でも、見ているうちに腰が痛くなったり、中がまったく見えなかったりとすごく時間がかかるんですね。

そこで、「1枚1枚見えるように展示したら、立ちながら目で追えるからいいかもね」と試しにやってみたら返却率が上がったんです。野田村ではテーマごとに分けるような工夫もしていました。ここは家族アルバムがありますとか、ここは結婚式のアルバムが多いですとか、お子さまの写真はここが多いですといったような分類の工夫ですね。

体育館いっぱいに家族アルバムを展示している所もありました。これは(宮城県)名取市の閖上(ゆりあげ)小学校の体育館なんですけど、たった3人でやらなきゃいけない状況で。

©︎浅田政志

1日かけてできるとしてもアルバム1冊か2冊くらいなので、僕自身もどうしたらいいかわからない…力になれないな…どうしたらいいんだろうと驚いたこともありました。

いくつか取材させてもらった中で一番印象的だったのが(宮城県)山元町でした。ここも被害が大きい所で、溝口くんという若い青年が写真救済プロジェクトの指揮を執っていました。彼は頭がすごくよくて、人づてに聞いたところでは、京大の入学式で彼の名前が呼ばれた時に会場がどよめいたそうなんです。高校生の時、全国模試で常に1位だったということで。

山元町は地震があった時に電波塔が倒れてしまって、情報が届きもせず発信もできずで、ニュースでも状況が不明のままでした。被害が大きいと分かっている所にボランティアが集中するので、山元町はボランティアも支援物資も少ない「取り残されてしまったまち」だったんです。溝口くんは情報をメインに勉強していたので、「情報が寸断されたまち」に情報の力で何かできるかもしれないと山元町を目がけてやってきたんです。

ふつうなら一番近い所とか、行きやすい所を目指しますよね。僕も「行きやすいから」と野田村へ行ったんですけど、溝口くんは行くところから気持ちが入っていました。現地で写真洗浄の現場を見た時に、「これは僕がやるべきだ」と思って関わったそうなんですが、彼がまずやったことは洗浄した写真のデジタル化だったんです。洗った写真をいかに持ち主に返すかという問題をデジタルの力で解決しようとしたんですね。

一口にデータ化するといっても大変なんですよ。複写したデータと写真の番号が合わないと意味がないので、1枚1枚シールを貼っていかないといけなくて手間なんです。

©︎浅田政志

他の人たちからは「本当にこんな大変な作業をするんですか」という反発というか疑問もあったらしいです。そこで、 溝口くんは顔認証システムを取り入れたんですって。

なにせ写真の量が多いので、来た方が写真を探しきれなくて肩を落として帰ることが多かったそうなんです。そこで溝口くんは、来た方の写真を撮ってパソコンに入れて、データ化した写真から画像検索をかけられるようなシステムを作ったんですね。

そうすることで、本人に似ている兄弟やお母さんの顔も出てきて顔認証で探せるようになった。僕はそんなことを想像もついていなかったんですよね。溝口くんに会った時、そういうシステムがあると聞いてびっくりして。編集者の藤本さんが顔検索した時には、奈良の大仏が出てきて面白かったりもしました。

山元町では学校の卒業アルバムを印刷して配布したりもしていました。卒業アルバムって持ち主の名前が書いてないじゃないですか。自分が卒業した年だと分かっていても、他人のものかもしれないので持ち帰ることができない。

そこでデータ化した写真を印刷して製本して、来た方が何年生まれのどこの卒業生ですと言えばもらえるようにした。これも溝口くんの発案らしいですけど、彼の頭の中を見ているような感じで、とにかく整理が半端じゃなかったですね。

人々が写真を撮るのは、「いつか見返したい」と思っているから

ネガだけが発見された場合には、町内の写真館や、チバフォート(宮城県大崎市)の千葉(英樹)さんたちが「俺がやる」と引き受けてくれたりもしました。ネガは砂などが付いていて精密機械にかけると壊れてしまったりするんですけど、病気されていて身体が大変な中、仕事が終わってから夜中までずっとやっていらっしゃる方もいらっしゃって。その時すでに700冊くらいフォトブックを作っていて、もうすぐ1000冊になるくらいになっていたんです。

写真屋さんでよく見る、デジタルミニラボの機械は何百万円もするものですごく高いんですよ。昔、写真館さんはすごく儲けていたらしいんですけど、皆が写真を撮れるようになってきて売り上げが下降してきて。千葉さんは市場が下降していた時に新しいデジタルミニラボの機械を思い切って買って、同業者から「今ごろそんな機械買ったって元を取れないぞ」と言われたらしいんですね。

「けれども、こうやって今はフォトブックを作ることができているので、この機械を買って本当に良かったです」とおっしゃっている姿がすごくすてきだなと思って聞いていました。写真に携わる方の鑑のようで、なかなかできることじゃないなと思って見ていましたね。

たった1枚の写真であっても当事者にとってはかけがえのない存在で、心の支えになったり、気持ちを満たしてくれたりするんです。涙を流しながら1枚の写真を見つめている方の姿を見たときに、写真そのものにすごく力があるんだということを教えられましたね。「自分が撮ることで何か力になれる」というのではなくて。

みなさんの家にも昔の写真があると思うんですけど、ぜひそういう写真もときどき見ていただきたいんですよね。1年に1回も見ないとは思いますけど、数年に1回でもいいので開いてみると、写っている人が自分に語りかけてくれるような気がするんですよね。それは他人だと聞こえないんですよ。自分がその方を知っていたり深く関わっていたりするから、その写真から声が届くのであって。

そういえば野田村には、住民の方に写真を見てもらうお茶会があります。ボランティアチームに飲食店を経営している方がいて料理やケーキを作ってきて持ってきてくださるんです。お茶も何種類あって。ただ写真を見るだけじゃなくて、写真を見ながらおしゃべりしましょうというイベントですね。

写真を見ながらだと会話が弾むんですよね。自分でない他人の写真なんだけど、「これは、こういう祭りだったかな」とか、「知り合いが写っているから届けてあげようか」とか、写真を見ながらお茶をするとすごく会話が広がるんです。

東日本大震災の後も、西日本豪雨や、千葉の台風19号被害など、水害があった所では写真やアルバムが水に浸かってしまうケースも多くて、今でもこのボランティアは続いています。水害や台風、地震はいつ来るかわからないと言われていて、こういったボランティアはこれからも続いていくだろうなと思っています。

これはすごく伝えたいことなんですけど、洗浄した写真ってほとんどがデジタル(カメラによる撮影)になる前の写真なんですよ。デジタルになってから、みなさんがいかにプリントしていないかということが分かってしまったんです。写真洗浄のボランティアをしたことで。

写真って未来のどこかで見たいから撮ってると思うんです。いつか見返したいと思わなかったら写真は撮らないでしょう。でも、いつ見るかって決まってないんですよ。いつかの未来に今の景色や瞬間を振り返りたいと無意識に思っているからこそ、シャッターを切りたくなる。その未来が20年後か30年後かは分かりませんけど、見たいと思った時にすぐ見たいじゃないですか。

今もプリントされている方はもちろんいるでしょうけど、「パソコンやスマートフォンにデータがあるからわざわざプリントしない」という方も多いと思うんです。デジタルデータの写真は救われる対象にならなかったんですね。大切な写真もあったかもしれませんけど、ダメになった「データだけの写真」がたくさんあるんですよね。

だから僕は、「プリントされていることがいかに大事なことなのか」ということを肌で感じながら洗浄作業をしていました。そのことをみなさんにも感じてもらえればと思っています。面倒くさいかもしれませんが、せっかく撮った記録を最大限生かすために、写真はプリントして大事にしまっておいてほしいですね。

写真集『浅田家』の表紙を飾った作品の前で

インフォメーション

浅田政志写真展 Family Photo Tree

  • 会期
    2020年1月25日~2020年3月8日
  • 会場
    金津創作の森美術館(福井県あわら市宮谷)
    https://sosaku.jp/event/2020/asada/
  • 開館時間
    10:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 入場料
    一般800円、高校生以下無料
  • 休館日
    月曜日(祝日の場合は翌日)
金津創作の森

映画『浅田家!』

2020年10月2日 全国東宝系で公開

  • 監督
    中野量太
  • 脚本
    中野量太、菅野友恵
  • 原案
    浅田政志(『浅田家』『アルバムのチカラ』)
  • 出演
    二宮和也、妻夫木聡ほか
  • Twitter
    @asadake_movie

この記事を書いた人

GEISEN.art

GEISEN.art(芸術専門楽群)

福井県福井市を拠点に、独自の視点でおすすめカルチャー情報を発信するプロジェクト。アートや演劇を中心に、講演、セミナー、子ども向け&親子向けイベントなどジャンルを限定せずお届けします。