「福井って『何もない』があるのが魅力だと思うんです」-フォトグラファー・Akine Cocoさん

日常の何気ないシーンをカメラで切り取りアニメのように昇華させる、福井市在住のフォトグラファー・Akine Cocoさん。毎日SNSに投稿される作品には福井人になじみのある風景が多く並び、「こんな切り取り方ができるんだ!」と感心させられることしばしばです。2021年2月、初の写真集を発表したAkine Cocoさんに、作品づくりにかける思いや制作のエピソードを伺いました。
(SNS上で活動されているご本人の希望で、作品写真とテキストでの構成です)

アニメっぽいけど現実感のある「2.5次元」を大事にしてます

-写真を本格的に撮り始めたのはいつごろなんでしょう? 最初からああいう作風だったんですか。

本格的にやり始めたのは2019年の6月ごろですね。8月にはTwitterのアカウントを開設したんですけど、最初は今みたいな作風でなくて自由に毎日何かしら写真を投稿するような感じで。風景や人が入ってる写真なんかを上げてました。そうですね…2020年の3月くらいですかね、今の作風になっていったのは。

-それは何かきっかけが?

風景はもともと撮っていたんですけど、ある日仕事の帰りにすごくきれいな夕日に遭遇したんです。それで写真を撮ってみたら新海誠監督の映画のワンシーンみたいな感じになって。

もともとアニメは好きでしたし、自分の好みに合致して「これだ!」と。その1枚で今のような作風を目指すようになりましたね。新海誠監督の世界観を真似てというのでなくて、影響を受ける形で。

-Twitterに投稿しているのは風景写真というカテゴライズでいいですか?

風景写真といえばそうなんですけど、自分の思いとしてはスナップ写真なんですよね。風景写真っていうと風光明媚なスポットに行ってガッツリ構えて撮るみたいな感じですけど…

-構えて一瞬を狙うみたいな。

そうそうそう。しっかり下準備してカメラを構えてみたいなイメージですけど、私の場合はそうではなくて。カメラ片手に何気なくその辺の集落を歩いたり街を歩いたりして、いいなと思った画面を切り取るという形なのでどちらかというとスナップ写真ですよね。なんでもないそこらの日常的なものを写している。

-福井だと車での移動というのが基本でしょう。日常の何気ない風景って見逃しがちになっちゃいませんか?

たしかにそれはありますよね。だから、目に飛び込んでくる風景のとらえ方にはかなり敏感になりますよね。いい夕日が出ていたりすると、ちょっとどこかに車を停めて集落を少し歩いてみたりすることは多いかもしれないですね。

-歩くという行為はけっこう重視されている?

多いですね。出掛ける時は車ですけど、どこかに停めて自分の好きな自分だけのスポットを歩いてみたりとか。

-そういうのがあるんですか?

ありますね、自分だけのお気に入りの場所が。周りには明かしてはないですけど(笑)。

-そういえば最近記憶に残っている作品で印象的だったのが、(2021年1月の)大雪の時に投稿した福井駅前の『串カツ田中』の看板の写真で。

ああ、ありましたね(笑)。

-みんな外出したくないなあと思っている時にも、すごくせっせとスナップ写真を撮りに行かれているという。

何か用事があって出掛ける時は常にカメラは持ち歩いてますね。「ついでに撮る」ということが体に染みついている感じです。大雪の時もそうでした。

-ところで普段使いのカメラは何を? スマホでなく一眼レフオンリーですか。

ソニーのα7RⅢを使っています。スマホではほとんど撮らないですね。出掛ける時はいつも一眼レフと一緒なんで、スマホで撮る必要がなくて。

-まあ、でも、持って歩くにはそこそこ大きいですよね。

大きいですね、今じゃ慣れましたけど(笑)。α7RⅢをメインにしつつほかにもいろいろ使ってはいるんですけど、このカメラがやっぱりいちばんです。正直、小さいカメラも欲しかったりするんですけどね…(笑)

-撮影データを作品として仕上げるにあたり、現像の段階でいろいろと手を加えるんですよね。

もちろん手を加えますけど、どうですかね…たとえば以前流行していたようなフィルムプリント調の仕上げと、やっていることに大きな違いはないと思うんです。それがアニメ調であるだけで、なんか大きいことをしてるわけではなくて。

-現像ソフトにはプリセットされた効果もいろいろあると思うんですけど、そういうのは使わずに全部イチから現像しているんですか?

毎回試行錯誤しながらやっている感じですね。自分の中の理想というのがあってそこに近づけていくというか。

-Akine Cocoさんの理想って一言で表現できたりします?

なかなか難しいですね(笑)。自分が思い描いているものですけど、言葉にするとなると難しい…表現するとすれば、アニメっぽいけども現実感を残すという感じですかね。「2.5次元」とでもいっていいのかな。

そういった2.5次元感は大事にしてるかもしれないですね。パッと見はアニメなんだけど、拡大して見たら現実だったんだということが分かるような。

-心を動かされる時の共通点みたいなのものってあります? さっき話した大雪の時のスナップにしても、光に彩られた雪景色っていろんな切り方ができると思うんですが。

その時にしか撮れない場面というものに魅力を感じますね。いつでもある風景なんだけど、ワンポイント何かそこに入ってるといったらいいのかな。ワンポイントになるのは人だったり、動物だったり、それこそ印象的な夕焼けだったりとさまざまなんですけど。

-Twitterとは別にInstagramでも作品を投稿されてますよね。でも作風はまったく違う。あれは何か意図があったりするんですか?

もともとああいうミニマムな写真も好きで、アカウントの使い分けがしたかったんですよね。インスタの方は玄人受けというか、正直ウケるようなものでないとは思うんですけど(笑)。でもあれはあれで、「好き」とか「面白い」っていってくれる人がいるし、自分も好きだからアカウントの使い分けをしているという感じですね。

-インスタの写真もα7で撮ってるんですか? 私の知人も一眼レフで撮って、PCで現像して、インスタに投稿してるんですけど、面倒といえば面倒な作業ですよね。

そのあたりは現像ソフトがやってくれるからそんなに面倒じゃないですよ。現像はアドビの『Lightroom』を使ってるんですけど、RAWファイルから現像した後のJPEGファイルってPCでもスマホでも共有できるので、スマホからインスタに投稿するのにも不便はないんですよ。Lightroomは便利ですね。高いですけど(笑)。

考えすぎないようにしてるんです。撮影も、アカウントを作るときも。

-SNSのフォロワーが一気に増えたタイミングというのはやっぱりえち鉄(えちぜん鉄道)の写真ですか?

やっぱりそうですね。昨年(2020年)の6月ごろだったんですけど、あの時に40万(ユーザー)くらいの「いいね」が付いて。その次の日に投稿した写真も10万(ユーザー)くらいの「いいね」が付いたんですよ。40万の方がでかすぎて10万の方は気付いてもらえてないんですけど、結局、そこでTwiiterとInstagram合わせてフォロワーが3万人ぐらい増えた感じです。

-あの時の写真も狙って撮ったわけではないんでしょう? 何だったんでしょうね、あの反応のすごさは。

(笑)。でも、うれしかったです。自分の作風を認めてもらったという感じで。別にウケたいとかバズりたいといった欲でなくて好きでやってるんで、そんな中でやっていることが評価してもらえてそれだけ伸びたということはうれしいなと。

-そういう経緯があって写真集出版ということになったわけですけれども、それは出版社の方から声かけがあったんですか?

そうですね。40万の「いいね」が付いた6月か、7月ごろにTwitterのDMで連絡をいただいて。

-けっこう早い段階でアプローチがあったんですね。写真は何点くらい収録することになったんでしょう。

200点以上で、一部県外で撮ったものもありますけど、ほとんどは福井で撮った写真ですね。

-表紙をあの写真にした理由は?

あれ見てどう思いました?

-青空に向かって撮ったアングルに、「防火水そう」看板の赤色が効いてるなという印象を受けました。日本の文字が入った看板だし、日本っぽいスナップ写真だなと。

正直狙ったわけではなくて偶然撮れたんですけど、あの写真がすごく好きで。アングル的にもインパクトがあるなと思って。表紙の写真を選んでいて、本にした時に遠くからでもパッと分かる1枚を選びたかったんですね。

ごちゃごちゃした風景もすごい好きなんですけど、それを表紙にしちゃったら分かりづらいですよね、遠くから見たら。だからインパクトのあるものを選んだという感じで。

-写真集の収録作品って、何気ない日常の景色を切り取り方を教えてくれる写真だと思うんですよね。僕も含めてですけど、福井の人たちって地元のことをネガティブに捉えがちだったりするので。

そうですね、どうしても。まあ、実際そうですよね(笑)。魅力度ランキングだって下から数えたほうが早いくらいだし、県外に対しての憧れもあるし。遊ぶにしても「どこで遊ぶんだ?」っていう話をどれほどしたか分からないくらいで(笑)。

ただ、写真を撮り始めて分かったのが「福井って悪くないな」ということで。ちょっとネガティブな言い方になっちゃうかもしれないんですけど、福井って何もないじゃないですか。でも、「『何もない』がある」というのが魅力なんじゃないかなって思って。

-都会だと情報がいっぱいいっぱいで。

そうそうそう。もちろん都会もいいんだけど、何もないのが福井の魅力だなって気づけたのは写真を始めたからだと思いますね。もともと、大阪とか京都に行って写真を撮ったりもしてたんですけど、コロナ禍になってそっちに行くのもなかなか難しくなって。そうなった時に、「もっと身近で撮れるものがないかな」と思ったところもあったんですよね。

-そうするとこの1年くらいなんですね。福井に絞ってスナップを撮るようになったのは。どうですか、この1年ほどを振り返って。

予想してなかった動きでしたね。本当にありがたいことで、密度の濃い1年でした。今後もいろんなことができるかなと思ってて、いろんな話をいただいたりもしているので、今年は今年でまた忙しくなりそうで。

-そういえば、アカウント名の由来を聞いてなかったですね。

正直いってすごい適当で(笑)、ちょっと柔らかい雰囲気のものがいいなと思ってナタデココを思い出したんですね。で、ナタデココそのままというのもなんなので、自分の名前をちょっと絡めてAkine Cocoにしたと。あんまり考えたくないなあと思って(笑)。

写真もそうなんですけど、基本的にあまり考えないようにしてるんですよ。考えちゃうとドツボにはまっちゃうので。パッと見てパッと撮るみたいなのが、今まで自分が吸収してきたものがいちばん出ると思うんですよね。フィーリングというか直感というか。

-写真はあくまで趣味としてスタートして、専門的に勉強したとか、部活で写真部だったとかでもなく。

そうですね。むしろ音楽やってました。一人でもやってたし、バンドも組みましたし。作曲が趣味なんですよね。だから、写真と自分の曲を組み合わせるような表現にも興味がありますね。

-福井の地域でまだ訪問してないエリアってあるんですよね。

ありますね。嶺南なんてぜんぜん行けてないですし。写真を撮るのが福井市・坂井市メインで、そこから鯖江とか大野とかに広がっていくという感じなんで。福井市から離れれば離れるほどぜんぜん撮れてないので、そういうところをもっと撮りたいなとは思ってます。

ただ、なかなか難しいですよね。そもそもが「目にした風景を撮る」というスタイルなので、遠くなるとそのために撮りに行くという感じになるじゃないですか。

-初めの方に話が出た「ガッツリ構えて撮る」方向になっちゃう。

そうなんです。だから、家族で遊びに行った時にちょっと写真を撮るみたいなのが自分でいちばんいい写真が撮れる時だと思うんです。

写真を撮るために出掛けるのでなくて、何かのついでに出会った風景にカメラを向ける方がしっくりくるし、好きな写真になることが多いですね。「あの時に撮った写真だ」というような思い出補正みたいなのもあるのかなと思っていて(笑)。それってやっぱりスナップ写真の本質ですよね。

写真作品集『アニメのワンシーンのように。』は、芸術新聞社(東京都千代田区)より販売中。2,500円(税別)

プロフィール

あきね・ここ

福井県在住のアーティスト。
2019.8月よりTwitterを中心に活動開始。1年半で20万人を超えるフォロワーの支持を得ている。
2021.2月 初の写真作品集を出版。
2021.4月にはNHKあさイチ「誰かに送りたくなる本特集」にて紹介される。

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この記事を書いた人

MORIKAWA Tetsushi(森川徹志)

小学生の頃、親が定期購読していた『暮しの手帖』で雑誌作りの面白さに目覚める。アートに興味を持ったのは、20代の時に関わった情報誌の編集がきっかけ。時代や作家などを問わず幅広く鑑賞するタイプだが、なんとなくの傾向としてデカくて一瞬で「うわっすげえ!」と思える作品が好き。アイドルソングDJ・teckingとしても活動中。

When I was in elementary school, I found it interesting to make a magazine with 'Kurashi no Techo' which my parents subscribed to. I became interested in art when I was an editor in my 20s. I appreciate art works of all ages and artists, but I like large works that surprise me by saying, "Wow, that's amazing!". I am also active as an idol music DJ tecking.