「3部作の第1作。次回作の構想もほぼできてます」-映画『JUNK HEAD』監督・堀貴秀さん

2021年3月の公開以来、熱心な映画ファンの間で話題のストップモーションアニメーション作品『JUNK HEAD』。舞台は人間が創造した人工生命体「マリガン」が暮らす地下世界。作品では、独自の生態系を築く彼らと、地上から生命体調査に派遣された主人公との冒険を描くストーリーが展開されます。

7年間かけて100分の長編を制作したのは、大分県出身の堀貴秀さん。アニメーション制作は独学、しかもほぼ1人で本作をコツコツと完成させたという情熱に、各方面から賞賛の声が送られています。

その情熱の源泉とは? 映画館『メトロ劇場』(福井市)での先行上映会+舞台あいさつで福井を訪れた堀さんに、完成までの道のりや作品に込めた思いを伺いました。
(一部にネタバレがあります。ご留意ください)

協力:ギャガ西日本事務所、メトロ劇場

新海誠さんに触発されて、軽いノリで始めました

-アートの分野を志すきっかけになった原体験は何だったのでしょう?

子どものころから、絵を書いたり物を作ったりするのは好きでしたね。親も大工だったし、身内も大工が多かったので、どこかその影響を受けたのかもしれないです。芸術系というより職人系だったので、どこでアート分野を目指すようになったのかははっきりしないんですけど。

-出身校の大分県立芸術緑丘高校は、県立高校でありながら芸術分野に特化した珍しい高校ですよね。

そうですね。美術科と音楽科しかなくて。それで、卒業後、芸術家を目指して東京の方に出て行ったわけです。

20代はアルバイトを転々としながら芸術家を目指していて、美術展でもそれなりに賞を取れたりもしたんですけど、それで食っていくまでにはなかなか行けなくて。

それで30(歳)くらいになって、美術を生かしたアートワーク専門の会社を起こしたんです。人も雇って、テーマパークのアートワークをやったりもしてまして。でも、お客さんから請けてやる仕事では自分の好きなことをできないですよね。

-まあ、うっぷんというかストレスも溜まったりしそうですよね。

アートワークの仕事をしていたので、映画を見るのは好きだったんです。その時はあくまで趣味として。だいたい映画を1人で作れるなんて思ってなかったですし。

そうしたら、新海誠さんが『ほしのこえ』という作品を1人で作ったのを耳にしまして。だったら自分も、趣味を全面に突っ込んだ映画を作ってみようと(笑)。

-『JUNK HEAD』は実写アニメーションですが、『ほしのこえ』に出合うまで、自身の表現手段としてアニメーションを選ぶことはまったく考えていなかったんですか?

まったく考えてなかったですね。コマ撮りで撮影する映画というのもほとんど見たことがなかった。ただ、絵を描いたり、あやつり人形の造形をしていたりという経験はあったので、そういうのを利用したコマ撮りアニメーションならできそうかと思ったんです。簡単なノリで(笑)。

-わりと楽にできそうな感覚だったと。

そうですね。3D CGだとそれを制作するアプリケーションの使い方を覚えないといけないけど、コマ撮りなら人形を動かしてカシャッと撮ればいいかくらいに軽く考えてて(笑)。それが実に大変だったという…

40歳を目前にして作り始めて、自営業のアートワークの仕事をしながら進めていきました。1人だったのでセリフも声を使い分けながら全部1人で充てて。言葉も有名キャラクターをもじったり、朝ごはんのメニューを並べてみたり。お金がなかったから仕方なかったんですけど、それはそれで変な言葉に聞こえるという、面白い要素になりました。

で、1カ月のうち仕事をする日を1週間くらいにまで減らして、それ以外の時間全部を制作に突っ込んで。4年かけて30分の短編を1つ作ったんです。

-1カ月のうち3週間が制作期間! よく仕事が成り立ちましたね。

(笑)。自営業なんで自分の裁量で仕事のペースを決められる感じではあったんですね。

それで、自分の作った映画を勝手にエントリーできるようなサイトがあったんで、そこに登録したら映画祭でいきなり賞をいただいてしまって。短編映画祭ではいちばん大きいフランスの映画祭から「来てください」みたいな連絡が来て。

-もともと海外を意識して作ったんですか?

いえ、まったく趣味だけで作りましたね。当時は短編を10本くらい作る構想があって、作品をYouTubeに流してクラウドファンディングで制作費を集めようと頑張ったんです。でも、うまくいかなくて。

そうしたら、「好きに作っていい」と言ってくださる日本の企業が出てきて、そこから出資を受けて70分くらいを新たに作ったんです。

つまり、冒頭30分くらいが短編として作ったもので、それに70分ほどをくっつけたのが(2021年3月に公開された)『JUNK HEAD』というわけなんです。

-ということは、前半30分でいったんは完結しているんですね。

そうですね。いったんオチをつけたところで長編として作ったので、話の流れに若干無理もあったりするんですけど。

-本編のどのあたりが区切りになっているんですか?

子どもの体が穴から出てきた生き物に食いちぎられて、頭がコロコロと転がって、落ちて拾われて、「私はだれ?」となるあたりですね。その後、ブリキの体に変わるところからが新たに作ったパートです。

今回、100分の長編として発表しましたけど、『JUNK HEAD』は長編3部作として作る構想なんです。次のエピソードも、絵コンテやストーリーはほぼできていて。

-ほぼできているとはすごいですね。第1作に7年かかったとなると、3部作が完結するのは…15年後くらい?

いや、予算次第かなとは思いますよ。第1作の制作費がきっちり回収できて次回作に回せれば2~3年くらいで行けるかなという予想はしています。まあ、お金が集まらなければ、また1人でコツコツかもしれないですけど(笑)。

©️ 2021 MAGNET/YAMIKEN

マンガのために考えたストーリーも生かしてます

-先ほど、「自分の趣味を全面に突っ込んだ映画」とおっしゃってましたが、もしかしたら『JUNK HEAD』完成までに7年以上かかっていた可能性もあったりします?

映画も予算と納期が伴うビジネスだと思っています。本当はいろいろこだわりがあって作り直したいくらいですけど、お金を出資してもらった以上、その条件の中で最大限できる努力をしなければならない。その努力はしたつもりです。

-その視点は、自営業としてアートワークに携わってきた経験に基づくものでしょうか。

それは大きいですね。美術系の感覚を持つことと、人を雇って給料を払ってプロジェクトを進めることを両立できる人はそう多くないと思います。どっちかに偏っちゃう。

-ディレクターでありプロデューサーであるという視点で取り組むと。

そうですね。

-全編通して地下世界が舞台で、突然変異したいろんなクリーチャーが出てきます。ずっと描きためていたとも聞きましたが、どこから着想されたのでしょう?

マンガを描こうと思っていた時期もあったので、少しずつ描きためてたんです。マンガのために考えていたストーリーを今回の作品に生かしたところもありますし。今まで見てきた映画とかマンガの影響もいろいろとあると思います。人によっては、何かに似ているという印象を受けるかもしれないですね。

-キャラクターを作る上で影響を受けた作品を挙げるとすれば。

そうですね…映画だと『エイリアン』とか『ヘル・レイザー』、マンガだと弐瓶勉さんの作品ですかね。あと、好きな作品でいうと『不思議惑星キン・ザ・ザ』がいちばん。シュールなコメディが好きなんですよ。

-地下世界を描く作品ということで、高さを生かした描写もふんだんに盛り込まれていました。撮影はどこで行ったのですか?

映画を作る5~6年前から使っている千葉の仕事場をスタジオにしました。200坪くらいありますね。仕事場の上に自宅があるという建物で。けっこうボロボロの場所だったりするんですけど、撮影を始めるとそれにのめり込んじゃう性格なので…

-プロデューサーよりも、ディレクターや美術家としての顔が出てくる。

なので、仕事場と自宅は近い方が(笑)。

©️ 2021 MAGNET/YAMIKEN
©️ 2021 MAGNET/YAMIKEN

「人間らしさ」を考えるきっかけにもしてもらえれば

-作品を見て「ディストピアもの」という印象も受けました。後半には地下の住人が天国に言及するくだりもあり、堀さんの死生観が投影されたのではとも感じました。

たしかに、ものを作ることイコール自分の思想、という考えはありますね。「生きることは死ぬこと」とか、「生きること食べること」とか。人間は限りない欲にまみれた生き物という思想もあります。永遠の命が欲しいとなると、『JUNK HEAD』が描くような世界になるかもしれないですね。

-地上世界の描写が、今の世界とリンクしてるような印象も受けます。リアルに会わずにコミュニケーションが成り立つ生活が描かれてもいるので。

いずれは、リアルに会うという必然性がなくなる世の中が来るかもしれないですね。それと対比するように、人間たちが作った生命体の方が逆に生き生きしていたりとか。作品を見た方に「何をもって人間というのか」「人間らしいとはどういうことなのか」といったことも考えてもらえればと思います。

-仮の話ですが、アメリカの映画会社が「お金はいくらでもあるからアニメーションを作って」と言ってきたらどうします?

「リメイクしてくれるなら」という感じですね。予算が大きくなると自分の好きなように作れなくなると思うんです。たぶん。関わる人も多くなるし、制作費を回収しようと思うとみんなに受ける要素も必要になってくる。とがったこともできなくなるのかなと。

-そうなると、やっぱり1人で作ることになると。

1人か、複数でも自由にやらせてくれる規模の予算感でしょうか。今回の作品でお金をそれなりに儲けて、そのお金を基に、人を雇えるくらいの規模で自分でやるというのが理想です。

実は、アートワークの仕事はほぼやめた状態なんです。短編の時は仕事との掛け持ちだったんですけど、出資をいただいた時に自分の会社はやめて知り合いに振ってしまって。

いつでも次回作に取りかかれるように、今はアルバイトという立場を通しています。自分で会社をやっていると、「いざ」という時に動けなくなっちゃいますから。

-では、すでに構想ができているという次回作の骨子をちらっとお聞かせいただければ。

次は、地下世界の「横方向の広がり」をテーマにした作品になる予定です。地下世界が惑星レベルで広がっているという、地球の世界が地下に入ったという感じで。地球上で国や文化が違うように、横の広がりで地域差が出たりするような描写ができればいいですね。

-ちなみに、あの地下世界は地球の地下という解釈でいいんでしょうか?

それはまだ明かしてないですね。

-「人間」というセリフがあったからてっきり地球かと…

もしかしたら…人間が移住しているどこかの星かもしれないです。そこはまたおいおいということで(笑)。

2021年5月5日、メトロ劇場で行われた舞台あいさつで

プロフィール

ほり・たかひで

1971年生まれ、大分県出身。

  • 1990年
    大分県立芸術緑丘高等学校卒。
  • 2000年
    アートワーク専門の仕事で独立。
  • 2009年12月
    短編『JUNK HEAD 1』(30分版)を自主製作として制作開始。
  • 2013年10月
    短編『JUNK HEAD』(30分版)完成。
  • 2013年11月
    渋谷アップリンクにて一日だけ自主上映を行う。
  • 2014年1月
    『JUNK HEAD1』をYouTubeに無料公開。クラウドファンディングで続編の制作費募集をするが失敗。
  • 2014年2月
    クレルモンフェラン国際映画祭(フランス)アニメーション賞受賞。
  • 2014年3月
    ゆうばりファンタスティック映画祭(北海道)短編部門グランプリ受賞。
  • 2015年1月
    株式会社やみけん設立。長編『JUNK HEAD』制作開始。
  • 2017年4月
    長編『JUNK HEAD』完成。海外国際映画祭で入賞入選多数。
  • 2021年3月26日
    『JUNK HEAD』劇場公開

この記事を書いた人

MORIKAWA Tetsushi

MORIKAWA Tetsushi(森川徹志)

小学生の頃、親が定期購読していた『暮しの手帖』で雑誌作りの面白さに目覚める。アートに興味を持ったのは、20代の時に関わった情報誌の編集がきっかけ。時代や作家などを問わず幅広く鑑賞するタイプだが、なんとなくの傾向としてデカくて一瞬で「うわっすげえ!」と思える作品が好き。アイドルソングDJ・teckingとしても活動中。