「作品を通して私の生き方も見てほしいと思ってるんです」-芸術家・西野カインさん

絵の制作過程をリアルタイムで見せるパフォーマンス「ライブペインティング」。福井でも街なかのイベントや音楽フェスなどで見かける機会が増えてきました。

福井を拠点に活動する西野カインさんも、ライブペインティングを通じて自身の生き方を表現する作家の一人。やり直しのきかない一発勝負の作品にかける思いをインタビューしました。

「病んでいる時代」を生きる人に共感される絵を

-まずは読者の方も気になってるであろう、西野さんの赤い髪の秘密に迫ってみようかと思います。髪を染めるにしてもいろんな色がある中で、どんなポリシーで赤を選んだんでしょう?

赤って主人公の色ですよね。戦隊ものとかプリキュアとか。サブで青とか黄がいたりするけど、赤は主人公の色で強くて勝てそうじゃないですか(笑)。緑とか青もきれいで小さい頃から好きなんですけど、自分が身に着けるなら赤だなと思って。今、18歳なんですけど、染め始めて3年くらいで、最近は1週間に1回染め直してます。

-絵を描き始めたのも髪を染め始めた頃?

いえ。その頃は歌う活動をしてました。中学3年生の頃、福井のライブハウスのイベントに出させてもらってアニソンとか歌ってたんです。

で、しばらくお誘いが来なかった時に、「そういえば私、昔からずっと絵を描くのが好きだったな」って思い出して、東京の展示会に出展してみたんですよ。「福井だとたぶんウケないかな」と直感で思って。それで大阪でもやってみたら、両方で原画が高値で売れてしまって。「売れちゃった。歌より絵がいいな」って思って、歌の方は“秒”で辞めちゃって(笑)。

その後、福井でもライブペイントの活動があるというのを知って勝手気ままにいろいろやってたら、知り合いがいろいろできて…みたいな感じで今に至ってますね。

-東京や大阪のイベントはどういうつながりで展示が決まったんですか?

絵を描いている人ってツイッターでいろんな作品をアップしますよね。私もそれでつながった人がいて、その人がたまたま公募制の展示会に関わってたんです。ちょっとグロい感じの展示会だったんですけど、私もわりとグロい絵を描いていたし「コンセプトが合いそうだし出してみようかな」って応募したらラッキーにも受かって。

-西野さん自身でさえグロいというその作風は、どんな原体験から生まれているんでしょう?

明るいのがめっちゃ苦手なんですよ…今、大半のアーティストが「希望を持とう」とか「努力は報われる」とか言いますよね。受け手もそういうのを求めてるとは思うんですけど、私自身そういうのがちょっと苦手で。

今ってSNSが普及してるのもあって、みんな人と人とのコミュニケーションが苦手になってると思うんです。若い人って電話嫌いなの知ってます? 絶対に電話してくれないんですよ。面と向かって言いたいことも言わないし言えないし、いじめもスマホを使ってネチネチやったりして。そのせいで心が病んでしまっている人も多いですし。

人というか時代そのものが病んでいると思うので、若い世代が共感してくれる絵の方が描けるかなと。明るい絵やメッセージを求められているから明るい絵を描くというのは、自分にはちょっと合わないかなと思って。それでああいう作風になったんです。

-西野さんの赤い髪にインパクトを感じていたので、「明るい絵が嫌い」という言葉は対照的で意外でした。

もちろん、作風に対するリアクションは好き嫌い分かれますよ。とにかく明るいものを描きたくないだけなんで、頑張れとか言いたくなくて(笑)。

小学生の頃から学校が苦手で、先生の言うこととかルールとか「命令すんな」みたいな感じで嫌いだったんです。誰でもそういう時期はあると思うので、そんな時期があったことを思い起こせるような絵を描き続けられたらなと。

そうした反抗心みたいなのが折れて、型にはまって過ごさないといけないようになった人にも「本当は自由にしていたいな」って共感してもらえればなと思ってます。

見た目と作品が対照的という話ですけど、私としては「主張したい」という根っこは対照的というほどではないかなと思ってます。方向性は違いますけどね(笑)。

行きのバス代と画材だけ用意して遠征へ

-西野さんはアクリル画のライブペイント活動が多い印象ですけど、インスタにはペン画も載せてますよね。屋外でペンでがっつり描くこともあったりします?

ペンで描く時は家でじっくりやります。ライペ(ライブペイント)で描くのと家で描くのとではぜんぜん出来が違うので。ライペを雑にやってるというわけではないんですけど、自分的には家でゆっくり描いた方が満足いくものになりますし。

-1日平均でどれぐらいの時間、描いてるんですか?

1時間以上は絶対に机に向かってますね。多い日だと起きてからずっと夜までとか。絵を描くのって疲れないんですよ(笑)。歌だと疲れてしまって「今日はもういいかな」みたいな感じになるんですけど、絵は疲れないですね。脳がバーッと興奮状態になっていて。

音楽活動を始める前から毎日描くのが当たり前だったんで苦じゃないし、逆に描いてないとしんどいですね。家に帰ってお風呂入ってご飯食べたら机に向かう…みたいなのが一連の流れにある感じです。

音楽は「続けなきゃ」って自分にハッパかけないと続かないんですけど、この間(2019年12月)自分が作った曲のMVを初めてYouTubeに公開できたんで、歌もまだまだやっていきたい気持ちはありますね。

-ネットで発表した作品に共感してライブペインティングを見に来てくださるお客さんと話をすることもあると思います。実際に話してみて、お客さんと西野さんに共通する経験があると感じることってあります?

ライペしている時に足を止めてくれる人と話をすると、どこか病んでいたり、自分の生き方に疑問を持っていたりすることをよく感じますね。

作品そのものの評価はもちろんですけど、作品を通して私自身の生き方も見てほしいと思っているんです。作品から私の生き方を感じてもらうことで、学校に行けなかったり、髪を真っ赤に染めたりすることもありだよと思ってもらえればなって。「ここに居場所があるよ」って伝えたいですね。

こんな言い方すると誤解を受けるかもしれないんですけど自分がすごく好きなんです、私(笑)。見た目もファッションも、生き方とか考え方もみんな好きで。だからもうちょっと目を向けてほしいなって思って活動してるところがあって。一般的な常識とはかけ離れているかもしれなくて、目を向けてもらう場面はめっちゃ少ないんですけどね。

謎なほどにすごく自分に自信があるんで(笑)、私は「芸術家」だと胸張って言ってます。ファンと言ってくださる人はそう多くはないけど、遠くから追っかけで来てくれたり、必ず絵を買ってくれたりという方が少しずつ増えているので。そうやって見てくれる人とじっくりしゃべりたい気持ちですね。今は。

-ファンの方はいちばん遠方だとどのあたりから来てくださるんですか?

東京でライペしている時だったら、青森や静岡から来てくださいます。

遠征でライペする時って行きのバス代と画材だけ用意して、お金をほとんど持たずに行って路上で稼ぐんです。背中に「帰りの交通費を稼げるまで路上でやります」って書いて、路上にスピーカー置いて音楽を流しながら描きますね。

そうすると、話しかけてくれたり投げ銭入れてくれたりという人がけっこういるんですよ。「(描いている)絵が完成したら買うよ」って言ってくれる人もいたり。「売れた! 荷物減るー!」みたいな感じで(笑)。

-東京だとどのあたりでやることが多いですか?

新宿か池袋が多いですね。以前、池袋でやった時に投げ銭ボックスを忘れちゃったことがあって、その時はお茶とお菓子とクオカードが入ってるコンビニの袋をもらったこともありました。「クオカード入ってる!」ってびっくりして。投げ銭できないからクオカード買ってきてくれたんだ!って。

-クオカードだとそのままバス代にはできなさそうですけど(笑)。

でも、クオカードでその日の夕飯は食べられました(笑)。遠征したらギリギリの生活がしたいんですよ。福井だと実家暮らしなんで「助けて」って言わなくても親は助けてくれるし、周りに友だちもいて「大丈夫?」って心配してくれる。ギリギリの状態で困っていたいんですよね。

2019年11月、福井駅近くで行ったライブペインティングの様子

自分の力で福井の顔になる街をにぎわせたい

-ゆくゆくは制作の拠点を移すということも視野に入れてギリギリ生活を選んでいるんでしょうか。

制作の拠点はいずれ関東に移したいとは思ってます。北陸だとライペで絵を描いて売って投げ銭もいただいてというのはなかなか…絵を買うということに興味ないのかなあ…北陸の人は。

地方に限らず、日本人にウケようとすると絵から派生した実用品になっちゃうんですよ。アクセサリー、スマホケース、トートバッグ、Tシャツみたいな実用品ですね。やっぱり身に付けられる物が欲しいんでしょうかね。

-絵を飾るという習慣があまりないのかもしれないですね。

東京での展示だと外国人が見てくれることも多いんですけど、外国人はグッズをほとんど買わなくてサインが入ってる原画を買う傾向がありますね。「コピー? オリジナル?」って聞いてきて、オリジナルって応えると「買うよ」って。

投資みたいな感覚らしいですけど、やっぱり本物じゃないと価値がないって捉えられてる。外国人の感性と、実用的な物を求める日本人の感性との違いを感じます。

-興味深いですね。福井と都会を行き来していたらそういう違いが見えてきた。

ぜんぜん違いますね。売れ行きもそうだし、立ち止まる人の客層も違います。福井だとおじいちゃんやおばあちゃんが「お姉ちゃん絵がうまいね」って立ち止まってくれたりするんですけど、都会の方へ行くと私みたいに一風変わった見た目をしてるような若い人が止まってくれることが多いです。

福井県民ってまず話しかけてこない(笑)。話したいんですけどね、私。

-強そうな髪の色してるから(笑)。

いやいや、話しかけてほしいんですよ(笑)。福井をディスっちゃってるような言い方になってるけど、やっぱり福井は好き。だから、福井の街なかでもっと大きくやりたいんですよ。福井出身でアートに関わっている者として。駅の前にある恐竜みたいな常設でできるような何かを。

-駅前の風景の中に自分の作品が欲しいと。

今の段階で欲しいというわけでなくて、私がもう少し有名に…まあ、知る人ぞ知るっていうぐらいになれたら、それをきっかけに駅前に人を呼びたいなと思ってるんです。「福井駅前に来ると西野カインの絵があるよ」みたいな感じの存在になりたいんで。

駅前に再開発ビルを建てるという話もそれはそれでいいと思うんですけど、私は自分の力で福井の顔になる街をにぎわせたいんです。死ぬ頃までには、福井に西野カイン記念館を建てたいですよ(笑)。遠い話ではあるんですけど、どこかのタイミングでブレイクできれば。

「名誉はいらない」とか「お金はいらない」とか言う人もいるけど、発言力を付けるためにやっぱり有名にはなりたいですね。今ってフォロワー数という形で分かりやすく拡散力が見える世の中なので、名が知られれば発言力にもつながるし仕事にもなるだろうし。ギリギリ絵一本でやっている状況から、もっとしっかりと仕事をいただける方向に持って行きたいです。

SNSがあったからこそ絵を描けている

-発言力を付けたいという言葉は、自身の活動が福井の人たちになかなか届いてないという実感からでしょうか。

そうですね。今、同世代の若手が福井で頑張ってますよね。メディアでもいろいろピックアップされていますし。そういうのを見ていると「ちょっと待ってよ、行かないでー」ってなっちゃって(笑)。

18歳になっちゃったので実はけっこう焦ってるんです。もう若さでは売っていけないなと。14歳の頃は「14(歳)の絵描きすごい」って言われて、16歳の頃は「16歳! 若い!」って言われて、18歳だと「高校生なんだ。すごい」みたいな感じで言われて。

そういうのって一種の肩書きとして機能するんですけど、だんだん年齢では売れなくなってくる。若さという武器がなくなってくるので、実力で上がって早いうちに売れないと!って。人前に出て自分を売ることもでき、絵を売ることもできる人間になりたいです。

-ミュージシャンだとそういう売り方が一般的ですよね。詞や曲を書いて、自分で演奏して、人前でライブをやって。アートの分野ではあまり多くないような。

どうしてだろうって思いません? ミュージシャンは歌そのものを売るので人前でのパフォーマンスも伴うけど、絵描きは絵を売るものだから本人が出る機会があまりないんでしょうね。

ミュージシャンは外見でファンを付けることもできますよね。歌ってる姿がかっこよかったり、ギターのプレイがすごかったりという要素でバンドが売れたりする。女性ファンが多い男性ユニットって、そういう要素で売れている印象です。逆もまた然りなんですけど。

私もそんなミュージシャンみたいに自分を売っていきたい。絵だけで評価されるんじゃなくて、自分の話を聞いてほしいし、見に来てくれた人と一緒に話もしたい。そういうやり方ができるバラエティにとんだ絵描きになりたい。あとは売れるだけなんです(笑)。

-その欲は大事ですよ。「売れたい」って思う欲は。

だんだんと「売れたい欲」が出てきました。初めの頃は、子どもの話を聞いてくれない大人に対する発言力が欲しかっただけなんです。「それは子どもの意見だよね」って一言で片付けられないようになるために。

日本人って見た目を大事にするんで、この見た目で売れていなかったら「単に遊んでるヤツ」と思われかねない。黒い髪でいわゆる「まともな見た目」をしていれば、「売れるために頑張ってるな」って評価になるんでしょうけど。

自分の中に信念があって芸術に対して熱いものを持ってるっていうところをアピールするには、やっぱり名前を上げる必要があるというのを実感しているんです。必死に話しても聞いてもらえないのって、やっぱりめちゃくちゃ悔しいから。

-「子どもだから」という理由だけで、自分の主張を聞いてもらえなかった経験が創作のバネになっていると。

話せる人が欲しいけど、14歳の頃なんて学校と家しか世界を知らないですからね。どうしても居場所がないという錯覚に陥ってしまってた。どこかに行こうにもバイトもできないしお金もないし…ってなってくると、ただ一人で泣いてるしかない。

私の場合、展示やライペなどのきっかけを作ってくれたのがSNSで、SNSがあったからこそ絵を描けていると思います。でも、なければなかったでもっと幸せだったかもしれない。SNSがなかったら「こんなことでは悩まなかったかな」っていうこととか、「こんな無駄なこと考えなかったかな」とか、「人と比べることもなかったな」とか思いますよ。

今はネットで簡単に、好きに自由に生きてるかっこいい人のSNSをチェックできる時代ですよね。SNSを見て、自分の環境と比較して落ち込んで…というような若い人も多いと思うんです。自分自身がそうだったから、そういう人たちにメッセージを届けたいんですよ。

-SNSつながりで遠方から見に来てくださる方もいて、いい意味での火種になっているような気がします。

ファッションブランドもちかぢか作ります。服とかアクセとか独学でデザインして。服は自分でペイントしたのがいっぱいあるので、それを売ることもできるかなって。

力を貸してくださる人がいる以上、成果は絶対に挙げたいですね。今、ギリギリ絵一本でやっていて正直厳しいんですけど…やっぱりバイトはしたくない。バイトしながらやってると絵を描くのを辞めてしまいそうで。

A4サイズで1枚3万円とか決して安くないものを買ってくれたり、「カインさんが将来もっと有名になってくれるように」って言って応援してくれたりするのに、「辞めた」って放り出すのってすごく失礼じゃないですか。だから絶対、どこかの目的地には行き着きたいですね。

福井駅近くにあるクレープショップ『MOMI&TOY’S 福井駅前店』の店内壁画も手掛けた

プロフィール

西野カイン(にしの・かいん)
福井県越前町生まれ

10代前半、絵画創作に取り組み始める。「初菜」の別名も持ち、路上やイベントでのライブペインティング、楽曲制作、店舗などの壁画制作、TwitterやInstagramでの作品発表など幅広い活動を展開。「SNS疲れ」など現代人の心理に寄り添った作風で共感を集める。2019年12月、自身が作詞した楽曲『むかしばなし』のMVをYouTubeに発表

Twitter … @Kain_xoxo
Instagram … @kain827

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この記事を書いた人

MORIKAWA Tetsushi(森川徹志)

小学生の頃、親が定期購読していた『暮しの手帖』で雑誌作りの面白さに目覚める。アートに興味を持ったのは、20代の時に関わった情報誌の編集がきっかけ。時代や作家などを問わず幅広く鑑賞するタイプだが、なんとなくの傾向としてデカくて一瞬で「うわっすげえ!」と思える作品が好き。アイドルソングDJ・teckingとしても活動中。

When I was in elementary school, I found it interesting to make a magazine with 'Kurashi no Techo' which my parents subscribed to. I became interested in art when I was an editor in my 20s. I appreciate art works of all ages and artists, but I like large works that surprise me by saying, "Wow, that's amazing!". I am also active as an idol music DJ tecking.