「目の前の事象を疑問に思い、思考を広げる」(2)-ダンサー・岩本亜樹さん

福井から海外へ。コンテンポラリーダンスの盛んなヨーロッパで踊るダンサーがいるよ、との情報を得てコンタクトを取りました。20代の岩本亜樹(いわもとあき)さんが、海外で何を思い何を考え、身体表現で実現したいことは何か、メールでやりとりを重ね伺いました。3回に分けて掲載します。(インタビュアー:齊藤理子)

ダンスは言葉ではない別の言語として観客と共有することができる

―ダンスといってもいろんなジャンルがあります。コンテンポラリーかつ現在されているミニマルな印象のダンススタイルを選んだ理由はありますか?

ミニマリズムなダンススタイルを選んだわけではないのですが、もともと揺らぎのあるものを見ているのが好きだったからでしょうか。人は揺らぎのあるものに魅力を感じるらしいです。揺らぎのあるものとは、空間的、時間的な動きが部分的に不規則な様子を指すそうです。私は、木の葉、川の流れ、人の群れをボーっと見ているとき、勝手な解釈ですが揺らぎの哲学を感じます。

2年前に作ったソロ作品では、ほぼ10分間、空間を廻旋するというシンプルな動きをメインにしました。ミュージシャンZoë Mc Phersonと2人のコラボレーション作品で、本番はライブ(生音)。作曲家でもありボーカリストでもあり、エレクトロニックミュージシャンとしてすでに活動している彼女と、一から作品を作る作業は貴重でエキサイティングな時間でした。

―ミュージシャンの方とはどのように出会うものなのでしょう?

私の場合、この作品にはエレクトロニックを使いたいという希望が初めからからクリアにあったので、ミュージシャンをよく知ってるパフォーマーに誰かいないかと聞いたところ、ちょうど彼女がラッキーなことにコンサートをしていたので、そこに足を運んだことがきっかけでした。

―音楽が先にあり、振付を考えるのか、振付があってそれにあわせて音楽をつけていくのか、どのようなスタイルで作品を作られていますか?

私と彼女Zoë Mc Phersonの間では、掛け合いを見つけることが挑戦でした。物理的に彼女も私も時間に限りが在り、リハーサルはもちろんのこと、お互いに会っていないときもキャッチボールのように音楽や動画を送り合って意思疎通をはかりました。そして主に私が作品の方向性を決めて、一緒にアイデアを広げていく、という流れが全体の過程にありました。最終的には、私が回り方のバリエーション、空間、演出を、彼女と共に音楽を決めていった感じでしたね。

制作しているときは、ダンスをしていないときでも、つまりプライベート生活でも強いインスピレーションを受けていました。例えば日々似たようなリズムで毎日が過ぎていきますよね。私の心情の変化も人との関係もいつも同じようでいて、でもどこかで変わり続けていて。繰り返す毎日なのに、どこかで変化があるというのがとても不思議で面白いことと思うのです。連続するものには変化がつきもの。この感覚を身体に置き換えようと思った時、思いついたのが1つのシンプルなアクションを連続させることでした。

一つのアクションには、視覚的な美しさがあります。スーフィーダンスといって儀式として廻旋することが宗教的な場として存在するということを知りました。回ることは瞑想と似ていて、自我からの滅却・解放ができる行為だと思っています。旋回、それは心身ともに特異な状態に自分を持っていくことができる一つの方法。もちろん初めてやったときは、目が回っていつも地面に倒れていました(笑)。しかし練習を重ねると、回るスピード、空間のコントロールができるようになって「体中すべてに意識がある感覚」「自分を俯瞰するような落ち着いた感覚」に陥ることができるようになりました。この作品はこういった高揚感やトランス状態から生まれるものがあり、それは言葉ではない別の言語として観客と共有することができると私は感じています。

時間と感覚とエネルギーを観客と共有することで交わることができる。ダンスは時間とともに消えていくけれど、その空間には余韻が残り、観客には観た記憶と体感か残ります。観客の目は、おそらく演者の視点と交錯し、共感感覚のようなものが生まれているのでしょう。演者として私もそこを面白いと思っています。

―私もまさしく思います。時間軸、空間、目に見えないけれども感じる想いの共有はできると。私はダンスはできませんが、観ることで「そこへ連れて行ってもらえる」浮遊感、というものを感じます。

―ダンスを続ける、ということは福井においても、日本においても難しいように思われます。海外へ飛び出し、それでも続けて行ける原点は何でしょう?

そうですね。ヨーロッパ生活で直面するのは言語、文化、歴史の違いです。これは大きいです。「日本では起きることがないよね〜」と笑ってしまうような波乱万丈な出来事もたくさんあります。この予測できないような機会に出会うことも、ここにいたい1つの理由かもしれません。そんな部分も自分に影響を与え、インスピレーションや新しい視点を見つける機会にもなっていて、不思議です。

父が「どちらか選択しなきゃいけないときはいつも難しい方を選ぶようにしている」と話していたことを思い出します。この言葉は、私の決断の材料のひとつになっています。

できるだけ自分が興味や関心を示すものには素直に従うようにしているので、その興味や関心が生まれるものが日本にいるときよりもヨーロッパに来てから出会うことの方が多かったのでしょう。こちらにいることは苦ではありません。ひとつあるとすれば、日本で積み上げた人間関係に変わるものが、最初は全くなかったので、中学生レベルの英語スキルで信頼関係を一から作り上げるのには時間がかかりました。

プロフィール

岩本亜樹(いわもと・あき)

1992年、福井県福井市生まれ、福井商業高校でチアダンス部「JETS」に所属、日本女子体育大学に進学し岩淵多喜子氏、勅使河原三郎氏のWSに参加。卒業後に渡欧し、2018年6月にアントワープ王立音楽院ダンス科を卒業。現在は振付家Maud Le Pladecの作品 “Twenty seven Perspectives”のツアーでヨーロッパを回り、アイルランドのカンパニーTeaċ Daṁsa  振付家Michael Keegan-Dolanの作品 ”MÁM” にも参加、ツアーを行っている。ダンスコレクティブのThe Backyardのメンバーでもある。ベルギーのブリュッセル在住。

この記事を書いた人

SAITO Riko

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。