「インスピレーションは自分で出すもの」-美術作家・三田村和男さん

毎年2月、西武福井店で新作を発表している美術作家・三田村和男さん。
来年で西武福井店での発表が20回目を迎えるとのこと。2022年の作品には、少しくすみと陰りのあるレトロモダンな色合いが見えました。三田村さん曰く「大正時代、大正ロマンの雰囲気が好きで、それを令和版にしてみたらどうかなと」と女性像を描き上げたそうです。

しばらくぶりに三田村さんにお会いしたいなと越前市のご自宅へ伺いました。

『十月の曲に沿って』 三田村和男 2018年 撮影/竹沢美穂 

 西武福井店の個展は、三田村さんが銀座で個展をしていたときに端を発します。画廊に百貨店の美術担当者が来られて気に入り、福井でも扱うように手配してくれました。その担当者は扱う作品に目利きと線引きを持ってたそうで「どんな作品でもいい、作家が福井に住んでいるから西武福井店(当時はだるやま西武)でというわけではない。どこにでもある絵では売れません。三田村さんのようにスタイルのある絵がいいのです」ときっぱり言われたそうです。百貨店としても売れないと意味ないですから、お客様に気に入っていただける絵を求められました。三田村さんは毎年20~30点出品し続け、前年とは違う新しさを付け加えた新作を披露しています。

 この色使いは最初から三田村さんの中にあったわけではありません。サロン・ドートンヌ(パリの有名展示会)へは裸婦画で入選を果たしています。パリへ渡り絵を学んで帰国した後、自身のこの先の表現について悩みました。色面構成を思いつき、ギャラリー舫(銀座)のオーナーに色面使いの絵と裸婦画を見せたところ、「色面がいい」と勧められました。アートハウスギャラリー(福井)では色面の作品を発表し、この方向で行く、と決めました。

『はじける露』 三田村和男 2018年 撮影/竹沢美穂

 『夢のふくらし粉』『光の踊り』––詩的なタイトルも魅力の三田村作品。センスのあるタイトルはどのように付けているのでしょうか?
「描き終えたあとです。その絵に感じたもの、ふさわしいものを過去の言葉集のメモの中から選び出します。常日頃浮かんだ言葉をメモして書き留めているんですよ」と話してくれました。タイトル付けは、絵と言葉がつながる瞬間を楽しむ時間でもあるようです。

絵具は発色の良いグワッシュ、紙はフランスのモンバル紙を使用

 レッド、イエロー、ブルー、どれも三田村さんの色だ!とすぐにわかる作家独自色を持っています。一番人気の三田村カラーはイエロー。ブルーにレッドを差した色面も売れるとか。
「絵具から出した原色をそのままは使用しません。私の作品に使われているイエローは同じ色に見えますが、作品ごとに異なり一緒ではないです。水の文量で色は変わりますし、描くときに作る色なので、あとで同じ色を作れといっても作ることはできません」と話します。

 三田村さんは光と明るさに関して敏感で、いつも気にしていました。
「陽の光や照明の関係で、作品を飾る場所によって色は違って見える。私は電球色の下で描いていますが、本当に色の見え方が難しい」。
電球の種類で青っぽく見えたり、赤っぽくみえたり。購入したお客様の家の、どこに置かれるかで「僕の作品はずいぶんかわるだろうね」と話します。LED照明は明るすぎて色づくりができない、とも。

アトリエを初公開⁉ これまでの個展案内ハガキが貼られています

 紙にいきなり色を塗ることはなく、アイデアスケッチをして、ふくらませていくのが三田村式。先にアイデアを出してそれをスケッチ、デッサンをします。実際に描く紙の大きさの数分の1スケールの紙の上に色紙でレイアウトをして配色配置を固めます。イメージが固まったら本番作業へ。マスキングテープを使ってレイアウトを再度行い、色を塗っていきます。細い線1本でも手書きではなくテープを使います(例外アリ)。
「色の塗り重ねはしません。濁りのない色と、そしてシャープで力強い色面となります。版画(シルクスクリーン)のように思われることもあるのですが、すべて手で塗っています。色面が重なることもありません。紙はフランスのモンバル紙を使っています。外国産の紙から越前和紙までいろいろ試した結果、現在の紙に行きつきました。ほどよく水を吸い、吸いすぎず、発色が良いからです」。

秘密に引き出しを見せてもらいました。手にしているのはスケールを小さくした下書きデッサンのもの。完成度が高い!

抽象表現に富んだ色やレイアウトはどのように浮かび上がるのでしょう?
三田村さんは「インスピレーションは自分で出すもの」だとはっきり話します。
「なんとなくではできない。自分で意識的にかかわらないと生まれません。どのように出すのかは自分次第です」。
そのためにヒントを自分の中にためておいて、出せるようにしておくと。1日かけてもアイデアが出ない場合もあり、そうかと思えば1日2点も浮かんでくる場合も。
「半年以上かかって新作が30点、というのも頷いてもらえればありがたいんだけど。ポンポン新作が出てくるわけではないんだよ、と分かってほしい(苦笑)」。

最後に、売れる絵、売れる画家についてお話いただきました。
「私は画家を生業としていますから、売れるか売れないかも考えないといけません。何を描けば好まれるか、ということも察知しないと。売れた絵を見ると、売れる理由が私にはわかっています。私の絵がいい、色が好き、という好きな方に買ってもらえるとうれしいです。でも売れる絵だけでは売れないのです。自分がこの絵を描きたい、という質を保っています。売れるからと言ってやみくもに崩すことはしないです」

取材終えてからのお話


取材後、お茶を飲みながら「いつから絵に関わったのですか?」と聞きました。ここからも面白かった!

すごく熱く昭和の文化について語ってくれました

 越前市で生まれ、京都の銀行へ就職した三田村さんは、支店前にある古本屋に通ったそうです。たまたま手にしたのが藤田嗣治の画集。「こんな絵を描く人がいるのか」と衝撃を受けたそう。自分も描きたい気持ちが募り絵画教室へ通いました。20代前半に銀行を辞めて着物の帯の図案を作る図案家のもとへ弟子入り。そのとき牡丹、菊、鶴など動植物をひたすら描いていました。
 昔描いていたという裸婦画をみせてもらうと、その背景には今の色面や形につながる絵の片鱗が見えたのです。裸婦画は今の女性像に、動植物の図案は今の色面モチーフにつながっていました。若かりし頃の鍛錬とフランスで見聞きしたセンスが今の三田村さんを作っていたのです。三田村さんの絵は単なるアイデアや思い付きではないだと思っていましたが、今ある心地よい色と形は、ゆるぎない基本軸があったのですね。

 三田村さんと出会ったのも、それこそ20年前。色使いも作品タイトルも抽象的なモチーフもどれもひとめで惹かれる作品でした。花かもしれないしそうじゃないかもしれない、時にはっきりモチーフが分かる場合とそうではない場合もあって、読み解く絵でもありました。音楽関連のポスターを手掛けていたときは、本当に絵から音楽がこぼれて聴こえてくるような絵でした。見る人の心に音楽を鳴らせる絵を描くのが三田村さんです。「抽象と具象を行ったり来たり」と三田村さんは話しますが、その行ったり来たりが私は好きです。

三田村さんの友人でカフェに絵を置いていた笠松さんのコメント

 私は福井県立博物館のリニューアル準備から携わり、昭和の大博覧会という展覧会を開催しました。そこにニコニコと笑顔で「昭和の文化が好きなんです」やってくるおじさんがいました。有名なメンココレクターでもあったその方が三田村和男さんでした。その後はワークショップやイベントでご一緒させてもらいましたが、当初は絵描きさんだなんて知らなかったんです。聞けば美術作家さんだといいますし、一度絵を見せてもらったらとても素敵で。そこで福井県立博物館のエントランスに飾る壁画をお願いしました。来られる方がわくわくするような、楽しくなるような気持ちの絵を具象的にならずに描いてもらったものです。

 私は仕事を退職後、知人の飲食店オーナーから昼間のカフェを任されて、しばらくカフェを開いていました。その時店内を自由にディスプレイさせてほしいと話し、三田村さんの絵をお借りしたのです。黒を基調とした店内に、三田村さんの明るい色が映えます。やはり見る人を明るい気持ちにさせる絵はいいですね。三田村さんの絵にはその力あるので、3点選び今も飾ってもらっています。(みくに龍翔館 館長・笠松雅弘さん)

三田村さんの作品の隣には笠松さんがお好きな鉱物も。素敵な組み合わせです。『ギターのふし』 三田村和男 2018年 撮影/竹沢美穂

プロフィール

三田村和男  (みたむら・かずお/Kazuo Mitamura)


1943 福井県越前市(武生)生まれ、武生高校卒
坪井一男、矢内原伊作氏の指導を受け京都YMCAにて学ぶ
1969-76 染織デザイン展(淡交社/京都)
1985 人形展(阪急百貨店/京都)
1987 渡仏
1988 サロン・ドートンヌ(パリ)入選
1990 ART 90 PARIS 招待(パリ)
   シカゴ国際アートコンペテシオン招待(シカゴ)
1991 アラウンザコヨーテ91(シカゴ)
1992 サロン・ドートンヌ歴史書に掲載される
1993 アートハウスギャラリーにて初個展(福井)
1996~2010 毎年個展 ギャラリー舫(東京・銀座)
2003 福井県立歴史博物館エントランスに全長11mの壁画を制作
1994~ 現在 全国各地の百貨店、画廊等で個展多数。
また、冊子の表紙絵やポスター等も多く手がける。

●パブリック・コレクション
福井県立美術館、福井県立歴史博物館、福井県立こども歴史文化館、御前崎町立清川泰次芸術館(静岡) 、江戸川大学総合福祉専門学校(千葉)

三田村さんの作品が見られる場所

お食事と珈琲 百(ひゃく)

福井県福井市板垣3-1624
0776-35-4900
【営】11:00~14:00
【休】火曜

百 · 〒918-8104 福井県福井市板垣...

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/article/?category=culture

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.