「想い出のある絵、まるで見守られているよう」-十人十色 オーナー吉田真さん

-この絵はどのような経緯で手に入れられたのですか?

絵は僕の持ち物ではなくて、亡くなった母が購入した作品なんです。母は美術や映画が好きでいつもどこかに出かけていました。母から聞いた話だと、福井県で展覧会があったときにこの絵を見てひとめぼれしたと。その場で学芸員に話しかけて購入できるよう交渉したそうです。

-1970年代に一般の展覧会でその場で買おうなんて、なかなかです。ハイカラなお母さまだったんですね。

僕もそう思います(笑)。母は片町(福井市内の繁華街)でお店を開いていて、もの書きの作家、新聞記者や画家が集う、いわゆる文化人が集まるサロン的な店でした。購入後は店にこの絵を飾っていたんです。そして作者である米谷さんが店に来るようになりました。

-作家さん自らが店に来て、場を楽しむなんて素敵です。

幼いながらに僕は掃除を手伝わされたりしたから思い出深い店ですよ。米谷さんが勤めていた多摩美術大学を退官した時もわざわざ会いに来てくれました。絵の額縁が壊れているのを見て、自ら持ち帰って直してくれたんです。

-そうそうあることじゃないでしょう、作家さん自ら見に来て直して持ってくるって…! お母さんもとてもいい関係を築いていたんですね。お付き合いのほどが偲ばれます。

『Phone-女』『Phone-男』米谷清和 いずれも1979年 116.7×99.9センチ 個人蔵 撮影/たとり直樹(スタジオ壱景)

-吉田さんのお店『十人十色』に米谷作品を飾ることになったきっかけを教えてください。最初から飾られていたのですか?

私自身、絵や写真が好きでいくつか収集して持っているんです。店をオープンする時、壁に何か掛けようかなと思って考えたんですがどれもピンとこなくて。「そうだ、母ちゃんのがある!」と思って壁に掛けたらぴったり。しっくりきました。これを掛けることで母とのつながりをちょびっとでも感じられるし、同じ片町で店を開く不思議ってのもありますね。恥ずかしながら母に見守られているような気もします。

-私は移転前の店でゲルハルト・リヒターの作品が飾ってあるのを見かけて声を掛けました。とても印象に残ってます。だって片町の料理店でリヒターって(笑)。

-『十人十色』は料理もさることながら器もバラエティに富んでいて素敵なものばかりです。感性はどのように磨かれたのか知りたいです。幼い頃の原点があるとすればどんなことでしょう?

そうだなあ、母の影響があるとすれば、小さい頃は映画館によく連れて行かれたことかな。日曜日はだいたい映画です。僕は嫌だったけど親が好きだから仕方なくってところはありましたけどね(苦笑)。でもそれが今思えばセンス磨きによかったんでしょうね。若い頃は、バンドやったり東京に出ていろいろやったりして20代でロンドンへ。ロンドンで10年以上料理人やってたんです。面白いでしょ?

-ロンドンはどんな街でしたか?

絵を描いて生活していける場所でした。人を自由に育てる場所でもありました。絵を描き、人が認めるというのが普通にできる街、いい街でしたよ。

住む人のことで言えば、自分の個性というものを最初から分かっていて、個性を持っている人ばかり。料理人が「俺はこれだ」という料理を出すんです。自信たっぷりに。そういう人たちの中で過ごしてたから、「ああ、人間ってそれぞれあるもんだ」とすごく感じて。その影響から『十人十色』という店の名前にしました。和食でも洋食でもない、新しい自分が作る自分の料理を出したいという思いも込めています。

-自我を前に出して、それがないと進めない街なんですね。日本みたいに譲り合いではやっていけなさそう。

撮影/たとり直樹(スタジオ壱景)

-作品をいくつかお持ちだと話していましたが、どんなものをお持ちですか?

作品というより写真集が多いかな。プロダクトが好きで気に入ったら高額でも買っちゃう。作品は、作家の意図をくんで買うものではなく、僕がその時どう感じたかで購入するものだと思います。「これを使う、このシチュエーションで使う、ここに飾りたい」と作品を前に考えることが、めっちゃ好きです。

お話を終えて


和食でもない、洋食でもない「吉田スタイル」。料理はもちろん器のセンスが良すぎてクラクラきます。この料理にこの器なんだ、とか、料理名からは想像つかない素材アレンジとか。料理も器も店のしつらえも培ってきたセンスが滲み出ていました。

取材前に食事をした時、一朝一夕で身に付くようなしつらえではないと感じ、とても不思議だったのです。ロンドンで過ごしただけで身に付くものだろうか、福井を出るまでの10代はどのように過ごしていたんだろう、と思い切って質問をぶつけてみました。18歳になるまでに目にしたものが、その後の価値観や美意識に影響すると私は考えているので、こういった方に会うと聞いちゃいます。

吉田さんの返答は、「映画を見ていた」ことでした。10代でバンドを組んで音楽が好きで年齢の高い人たちともお付き合いをしていた、とも。納得、映画か、音楽家、と妙に納得。「母親に連れられてたから」とはいえ、吉田さんのお母さんは息子さんに感性を残したんだなあと、映画のワンシーンにも使われそうな店内で私はしんみり感じ入りました。

さて、そのお母さんがその場で購入を決めたという作品を描かれた米谷清和さんについて。

米谷さんは都会の雑踏や公衆電話をモチーフにしたシリーズを描いている作家です。公衆電話の存在が今となっては時代を感じるアイテムとなりつつも、公衆電話を知らない世代が見ても、その絵の中で「…何か…ドラマが生まれている」と感じさせる絵です。人物の表情が見えなくても分かる。人の丸いフォルムが愛らしくあり、寂しげでもあります。

男と女、その意味深なタイトルが、またそそります。

この日の撮影は、たとり直樹カメラマンにお願いしました。陽は入るし、額装のガラスは光るし、という難しい場所でした。機材や照明テクニックでカバーしてくれたたとりさん、ありがとうございました。

作家プロフィール

米谷清和(よねたに・きよかず/YONETANI Kiyokazu)

1947年福井県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科日本画元教授。多摩美術大学日本画科在学中であった1969年、横山操奨学金を受けヨーロッパを旅行。都会に暮らす人々の何気ない日常の中に潜む孤独を描く。2002年米谷清和展(福井県立美術館)
主な収蔵先 福井県立美術館/佐久市立近代美術館/三鷹市美術ギャラリー/成川美術館/刈谷市美術館/東京都現代美術館/山種美術館

福井県立美術館研究紀要に米谷さんの学生時代の話や師匠である横山操さんとのお話が載っています。米谷さん、メンタルお強い!
〈横山操生誕100年特集①〉
改訂版 米谷清和氏に聞く 
日本画家・横山操とその時代 佐々木美帆
http://info.pref.fukui.jp/bunka/bijutukan/bulletin/index.html

或る場所

十人十色Dinings @10nin10color
〒910-0023 福井県福井市順化2丁目7−16城戸ビル2階
[月~土]18:00~22:30(ラストオーダー22:00)
定休日日曜・不定休

十人十色Koya @10nin10color_koya
〒910-0023 福井県福井市順化2丁目7−16城戸ビル2階
[木]20:00~23:00(ラストオーダー22:30)
[金・土]20:00~24:30(ラストオーダー24:00)

十人十色Bar @10nin10color_bar
〒910-0023 福井県福井市順化2丁目7−16城戸ビル1階
[月~木]19:00~25:00[金・土]19:00~26:00
定休日: 毎週日曜&毎月第3月曜
クレジット、paypay支払い可

絵が掛けてあるのは『十人十色Dinings』です。

十人十色 · 〒910-0023 福井県福井...
こちらからの店内の眺めもいいでしょ? 撮影/たとり直樹(スタジオ壱景)

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/column/art_view-somewhere/

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.