「依頼主が誰であろうとも誠実に作ること」 佐々木額縁画材店・佐々木茂雄さん

福井県で「額縁をお願いするなら佐々木さん」と言われるほどの有名人。書道家、絵画や版画の美術作家など「額を必要とする」作品であればなんでも手がけています。私が美術作家さんの取材を重ねる中で必ずお名前が出てくる方なので「どんな方かしら」と気になって、工房を尋ねました。

スタートは大工、製材の技術を得て
父が手掛けた額縁づくりを学ぶ

―最初から佐々木額縁店として開業されていたのでしょうか?

額縁は私の父がはじめたもので、私は2代目です。今でこそ、皆さんに額縁屋さんと思われていますが、額縁屋としてスタートしたのではなく、もとは建築資材を加工する会社でした。

詳しくは知りませんが、父が手に職をつけるため大阪に修業に出たときに、額縁の作り方を学んできたそうです。福井へ戻ったときは住宅建築の仕事を始め、福井市木田のほうで材木加工を営んでいました。その後今の工場(福井市二の宮)へ移転して50年近くになります。

―茂雄さんご自身のことを教えてください。

私は私で建築を学んで、若い頃は大工として仕事をしていたんですよ。最初は勤めていましたが、父が手にけがをしたので私が家に入って材木加工の仕事を請け負うことになりました。昭和40年頃の話です。木材加工だけでは心もとなかったので、福井市内の表具店に「木の型枠も作れますよ」なんて言って回ったんです。今でいう営業活動ですかね(笑)。そうしたら表具店から声を掛けてもらえるようになって。そこからぼちぼち作品の裏方に関わるようになりました。

―最初に手掛けた仕事は覚えていますか?

最初かどうか分からないけど、書道展の書を貼るための額(木枠)を作ってくれ、という話があって、結構な数を作りましたね。でも、私は額縁づくりの専門職じゃないから迷っちゃって、いろんな書道の展覧会を見に行きました。ほとんどの人は書を見に来るけど、私は額縁を見に行っててね。見よう見まねで勉強して作ったり、依頼主からの見本をもとに作ったりしました。

―なんと、書道の額からスタートしたんですね。意外です。私は美術作家の方が依頼していると聞いて、てっきりそのつながりがあるものだと。

私は美術や書道に詳しいわけではないんですよ(笑)。表具店を通じて美術館関係者の目に留まって依頼があったり、依頼してくれる作家さんたちが私を美術館に紹介してくれたり。そんな感じかな。口コミです。

―ご家族でされていたそうですが、どんなお仕事だったのですか?

額縁の仕事でいえば、大阪の額縁店から依頼がありました。バブル前、海外へ出かけた日本人が絵をお土産に買って帰るんです。帰国して絵だけををくるくると巻いたものを店に持ってきて「これに合う額を作ってほしい」と。ただ海外作品なので、サイズはA4とかB1とかそんなものではなく、完全にオリジナルの大きさ。持ち込まれた額縁店が連絡をくれて特別注文で作りました。今でいうシンプルな枠ではなく、絵を華やかにするためにわりと豪華に、ごてごてっとしたタイプの額をいくつか作りましたね。

盆や正月は、お礼の品を持って父親たちと大阪の額縁店へ行くんです。お礼がてら話を聞いて次に生かすために。冬はカニを積んで行きましたよ。依頼主や額縁店が望むことは何か、を聞いて回ったことが経験です。

作家から指名を受けて現地で取り付け。
単なる額で収まらず「設置」を任される

―先ほど、美術館から声がかかるようになったとお話いただきました。地方や現地でも額を作れる大工さんや職人がいると思うのですが、そこはあえて佐々木さんに指名がいくのですね?

そうなんですよね、なぜか指名されるので、そこに行かなくちゃならない(笑)。九州、中国、四国、中京、関東、ほんと日本全国の美術館に行きました。車に道具を載せて何時間も運転したり、道具や枠を宅配便で送って現地で受け取ったり。でもね、開催前の準備中の美術館にこもりきりで、仕事終えたらトンボ帰りですよ。

―思い出に残っている取り付けの現場はありますか?

宇佐美圭司さんの作品で、東京大学の食堂に取り付けたものかな。大きな作品で、取り付けも工夫と時間がかかり、何日間かそこにこもってました。※01

※01 東京大学の食堂にあった宇佐美圭司さんの作品は撤去、廃棄され、物議を醸しました。https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/14989

宇佐美さんは、越前町のアトリエの収納庫も作らせてもらいました。

―収納庫? 額ではなく?

そうです、階段も作ったなあ。奥様が設計した図面をみて作りました。家の一部を作ったようなものですね(笑)。

―若い頃に、大工だったこと、建築資材を加工していた腕が活かされたということですね。ほかにはどのような方の枠を作られましたか?

小野忠弘さんかな。長い付き合いになるのは吉川壽一さん。最近は福井高校の体育館にかかげる作品の額縁を作りました。額縁というより、額縁にいれて展示するまでが仕事ですね。足場をつくって吊りあげて、落ちないように固定して…4メートル近くあるものだったので重さも相当でした。

―宇佐美さんも、小野さんも、吉川さんも大型の作品を作る方ばかりです。

そう、だから額縁を作って、はめるだけじゃないんです。額縁を作りながらどうやって吊り上げようか、展示しようか、そちらに意識が向いています。この工房で作品にはめて出荷するのではなくて、いずれも現場(美術館やギャラリーなど)に持っていってやるんです。来週は、日本画を天井にはめていく仕事があって、どうやってはめていこうか、と考えあぐねているところです。

―作家さんからの絶対的な信頼を受けているのですね。自分の作品を預けるのですからその信頼度は絶大だと思います。美術館や施設さんも信頼と経験のある方にお願いしたいという気持ちももっともです。作家さんと学芸員が展示室のレイアウトは決めているとは思いますが、それは佐々木さんのような方が希望する場所で鑑賞できるよう下支えをしているからだと改めて感じました。

材木加工の経験も多数。
それが変形の額縁づくりに生きている

―額縁づくりのほかにどのようなお仕事をされていますか?

もともと材木の加工が主だったので今も設計加工をしていますよ。展示会用のディスプレイを作ったり、店舗ディスプレイ用の眼鏡ケースを作ったり。全国展開しているあるお店の店舗用パネルも作ってます。企業やメーカーさんの依頼も多いんです。プラスチックが主流で安価でできる会社はあるけれど、木製でかつオリジナルで作るとなると誰もやってないので、お声がかかるのだと思います。

―工房内は木を切りだしたり、抑えたりする大きな機械と工具にあふれていますね。お仕事をされる中で気を付けていることは何ですか?

一番気を付けていることは怪我です。刃も自分で研磨しますし、機器への取り付けも自分でやり、ネジの塩梅を確かめます。一度怪我をしたことがあって、それからはもっと慎重に。怪我の経験がないと分からないこともありますね(苦笑)。

取り付けをして落ちたことはこれまで一度もないですね。それが仕事へのプライドであり自信です。

―額縁の形、色やマットはどのように決めているのですか?

作品を見ると「これならこの枠」「このマットが合うな」とひらめきます。マットの切り方もこれがいいと勘というのでしょうか。お任せされる場合もありますし、細かく指定される場合もあります。作家さんから注文は、もちろん注文通りにしますよ。「こうした方がいいなあ」と思うこともありますが、ご希望に合わせて作っています。

―作品を作ることはできても、作品に最適な額縁を合わせるというセンスは練習して身に付くものではないです。私もいくつか作品を持ち込んだ時、「これならこの枠だね」とさっと出して合わせてくれました。仮に合わせただけでも作品が浮かび上がって、壁に飾る風景が見えました。この勘と経験というのは佐々木さんしか持っていないものだと思います。お話ありがとうございました。

お話を終えて

製材し、指定のサイズに整え、枠にして、吹付など行いひとつの額にする。1枠だけもあれば、数十、数百という枠の場合もあるそうです。いずれもオーダーメイドで、ひとつひとつ手作り。普段の作業の様子を見せていただきましたが、「無駄のない動き」とはまさにこのこと。同じものを同じクオリティでいくつも作成することは容易ではないと素人でも感じます。

額は、作品を下支えするものであり、制作者の名前が図録やキャプションに載ることはありません。それでも美術関係者から問い合わせがあるというのは相当の知名度を持つ方だと思います。佐々木さんは「依頼主が誰であろうとも誠実に希望するもの、確かなものを作ること」をモットーとしていました。「依頼主によって腕を変えることはできませんから」と。

実はインタビューの半分は奥様が話してくださいました。ご主人のお顔を見て「言いたいことはこれでしょ?」と奥様が解説くださいました。取り付けのため、二人で全国どこでも出かけたことを楽しく話してくださるおしどり夫婦でした。

佐々木額縁画材店(ささきがくぶちがざいてん)

〒910-0015 福井県福井市二の宮5-8-15
電話 0778-22-6982
不定休

佐々木額縁画材店

この記事を書いた人

SAITO Riko

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。