「扉を開けて、飛び込むその絵は、私に“その日の気分のパワー”を与えてくれます。」-美容師・斉藤のりこさん

「散髪屋さんでは切りたくない」と順調に思春期を迎え始めた娘からの発言により、ぴったりうっとりするような美容師さんにお願いしたいとうろうろ。風のうわさで、昔お世話になった美容師・斉藤のりこさんが、とある場所で店をかまえ、ひとりで切り盛りしているという。彼女なら、絶対に娘が虜になるはず!と、数年ぶりに連絡をしてお願いに。ドアを開けて最初に目に入ったのが、なんと青山円(あおやま・まどか)さんの絵だったのです…!

撮影/山口尚美

―扉を開いて驚きました。どこで青山円さんの絵を?

5,6年前だと思います。越前市のゲッコーカフェで見かけて、ひとめぼれでした。青山さんの個展だとも知らなくて、たまたまです、たまたま。本当に。

-これまで絵を買われていましたか?

いいえ! 絵を買うのは、青山さんの作品が初めてです。観てすぐに「欲しい!」と直感で。今まで絵を買うなんてことなかったですし、自分がそうするなんて思いもよりませんでした。自分にびっくりという感じですね。青山さんのことをもともと知りませんでしたから、福井県にいて制作している作家さんだとカフェのオーナーさんに聞いて親近感がわきました。

―お店に飾ろうと思って絵を探していたとか?

それも、いいえ、です(笑)。店のために探していたのではなく、驚くほどのひとめぼれです!

―購入にふみきった、そのときの気持ちを教えてください。

絵とフィーリングが合うなんて、初めての感覚でした。そのまま直進して「これを買うことができますか?」と生まれて初めてオーナーさんに迷うことなく伝えたことを覚えています。

そうそう、キャンバスの形にも驚いたんです。絵といえば薄い平面というイメージしかなかったのですが、青山さんの作品は厚い。こういう立体的な作品もあるんだと感動しました。

―購入時、購入後、気持ちの変化はありましたか?

迷いはなく、購入時の値段も覚えていません。手が届く範囲の価格だったからかもしれませんね。いくらだったんだろう…。

最初の作品を1点購入したとき「一作品ずつ、毎年自分が頑張った成果として購入しよう」と決めました。1年目は四角の作品、2年目に丸型の作品を購入しました。3年目は…売り切れだったんです。

売り切れでも諦めきれなくて。いろいろ情報を探したら、青山さんが東京でも個展をすると知り、東京の会場まで連絡をしましたよ。それでも手に入りませんでした。

―東京まで問い合わせるとは、すごいファンぶりですね。青山さんとお話されたことはありますか?

一度お会いしたことがあります。そのとき、青山さんが「ひとつの作品を作るのにとてもパワーがいるんです」と話していました。ああ、やはり1作品1作品に想いを注いで全力で制作されているんだ、と私も熱くなりました。

撮影/山口尚美

―ご自宅ではなく、職場(美容室)に飾ろうと思ったのはなぜですか?

ひとりでやっているお店なので、何かからパワーを得たかった。それは私にとってはこの絵で、この色だったのでしょう。大きなサロンで働いていたときは、働く仲間やお客様からパワーをもらっていましたが、ひとりだとパワーは自分から獲得しに行かなくちゃならないんです。

ですからこの美容室のどこに飾ろうかと考えたとき、自分の目線に置きました。入り口のドアを開けてこの空間に入ったとき、最初に私の眼に色が飛び込む、その位置です。毎日ドアを開けて、毎日パワーをもらえるように、と。

―なるほど、毎日受け取る位置にある、いいですね。そういえば壁をはじめ白を基調にした店内の装飾ですね。オフホワイトというか、照明もやさしいです。

お客様をメインにして輝くように、と考えている美容室なので、色は極力使わずにおきました。色の少ない店内かも。だからこそ絵が浮き立つのか、お客様からも「どなたの作品ですか?」と質問を受けることがあります。

撮影/山口尚美

―お客様にはどんなふうに感じ取ってもらいたいですか?

お客様は、このお店にいろんな感情と気持ちを抱えて来店されます。取り巻く環境も人によって異なります。今日来られた方が、一か月後に来られた時、まったく同じ気持ち、ではないでしょう。

青山さんの絵は、お客様が「その時の気持ち」で見られる絵です。
抽象的すぎず、何かの形にも見えるし、どこかの景色にも見える、色のある絵です。
ふっと見かけたときに、お客様がなんとなく「何か」を想像してくれると思います。
私は「その日の気分のパワー」をもらえる絵なんですけれど。お客様はどうでしょうね(笑)。

私がこの絵から感じるのは自然の中に内包された、自然の中の色。色が緑っぽいから、という意味ではありません。たぶん、私の中にある色なんだと思います。

10月に(坂井市の)三本日和さんで個展があるんですね。私の成果を買えるように、次は早めに行きます!

―ありがとうございました。娘のカットもお願いします!

「或る山」2015年(左)、2017年(右) 撮影/山口尚美

その場にいたみんながつながってしまった裏話

青山円(あおやま・まどか)さんと私とは20年近いお付き合い。福井駅前にあったギャラリーG2で出会い、その色遣いと構成力に惹かれた絵画作家さんです。

旧来の友人の絵が、数年ぶりにお会いした美容師さんの空間にある、なんとも不思議なこれぞ縁。

縁つながりでいうと、今回撮影を依頼した山口尚美さんは「開店のときのショップカードの撮影をしたとおもう。確か、エルマノさんのところのお花でTORICOって作ったよね?」と。のりこさんもびっくり「私もそうじゃないかと思ってたんですけど…」と大当たり。福井は狭いという言葉で片付けられないですね。

のりこさんは「作品タイトルは知らないんです」と話していました。円ちゃんに聞いてタイトルをようやくゲット。固定のタイトルは付けてないそうですが、敢えて言うなら、という命名で教えてもらいました。

斉藤のりこ(さいとう・のりこ)
福井県福井市生まれ。新福井駅近く、紹介制の個人美容室を持つ。

torico(トリコ)
〒910-0859 福井県福井市日の出1-7-10
torico.35.co@docomo.ne.jp 
営業時間 9:30~16:00
※観覧のみの来店はご遠慮ください。
※紹介制の美容室です。

青山さんの個展情報はこちら!

青山円個展「眺める」
2021年10月21日(木)~11月3日(祝) ※10月27日(水)定休 

三本日和(さんぼんびより) 
〒913-0046 福井県坂井市三国町北本町4-4-16
0776・92・0301 
11:00~17:00
https://www.sanbonbiyori.com/

本インタビューは、月刊fu「或る場所のアート」(福井新聞社発行)のはみだし版です。本誌も読んでね☆ 

月刊fu(ふ~ぽ)
https://fupo.jp/column/art_view-somewhere/

2021年10月号掲載分です。

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この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.