私が望んだのは「疑いようのないはっきりとした黒い線」。ステンドグラスの黒の縁を目にしたとき「これだ!」と気づいたんです。-作家・山橋さやかさん

私が山橋さやかさんの作品を初めて目にした時、切り絵という手法の前に、やわらかな線、にじむ色合い惹かれました。草花や自然風景が有機的な線でよみがえり、かわいらしさだけではなく、憂いやまどろみを感じました。適度な面積の白い空白は、息継ぎを与える空間です。2011年、山橋さんがカフェで個展をしたときに初めて出会い、その活躍を目にしてきました。今、改めて、制作と切り絵についてお話を伺いました。

-今回、鯖江市のレストラン「がった・ねーら」さんの看板を記事に取り上げました。10年以上の仕事になりますが、その時オーダーを受けたときのことを話してくれますか?

「黒猫をモチーフに」というオーナーのイメージがしっかりしていたのでそれにこたえようと思いました。看板ということを意識して「シンプルでわかりやすく」を心掛けました。そのうえで「かわいらしさとかっこよさ」の二つを備えたものにしようと北野オーナーに提案しました。

-設置後の反響はありましたか?

知人友人から「インパクトがあってかわいい」「気になってたの、あの看板!」と声をかけられました。この頃は福井でも東京でも切り絵作品を発表していて、渋谷のレストランの内装に取り入れてもらったり、いろいろ経験しました。

「It’s no use crying over spilled milk」2010年 撮影/小林照美

-ぐっと話は戻ります。さやかさんが切り絵と出会い、表現手法として手に入れるまでのあゆみを教えてくれますか?

高校卒業後進学した玉川大学では、美術の歴史から実技までいろんなことができる芸術学科だったので、とても影響を受けました。学生の頃はパステルで作品を作っていたんです。イベントで似顔絵を描いていました。作家・池田あきこさんに憧れて「彼女の使う画材を勉強しよう」とソフトパステルを使いはじめました。

しかしやってみると、「もっと線が欲しい」という欲がでてきたんです。パステル独特のほわんとした色彩だけではないものが欲しい。“ほわん”としたものでは、どうにも思い通りの絵にならない。私が欲しいのは「パキッとした疑いようのない線」でした。

鉛筆ではだめ、マジックでもムラがでる。油性ペン以上の強い線が欲しい…。線を出すためにいろいろな画材を試しましたよ。「自分が思う線を自分のタイミングで出したい、早くものにしたい!」と焦っていていろいろ試したんだと思います。回り道だったかもしれませんが行きついたのが切り絵でした。

-パステルやマジックから、切り絵へという手法はどのように見つけられたのですか? 接点がないように思いますが。

電車に乗っていた時、たまたま車内で教会の広告を見たんです。ステンドグラスが目に入りました。写真だったのか切り絵だったのか、とにかくステンドグラスの黒の縁を目にしたとき、「これ!これだ、こういう線!これだよ!」と気づいたんです。色はなんとでも出せますが線はそうとはいかない。私の思う「線」を出すのが切り絵だったんです。

-電車の中の広告が出会いだったんですね。ステンドグラスのその黒い縁を再現するのに、どのように勉強されたのですか?

誰かに習ったわけではなくて、独学です。最初に100円ショップのカッターを買ってきてやってみました。パステルや水彩は技術が必要ですが、切り絵はそういうもんではないだろうと。やっていくうちに「線にやわらかさがほしい」と思ってきて、自分で試した末にやるようになったのが「角を丸くして切り取る」方法でした。四角の角を丸くすること、とにかく角を丸くすること。最終的に丸くする意識でとろんとしたやわらかい線にしました。切り絵といえば藤城清治、滝平次郎という大御所がいらっしゃいますが、私の中では「藤城さんや滝平さんが出す線ではない」という路線だけははっきりしていました。

-里帰りしたタイミングで越前市で切り絵を中心に個展をされていますね。

ゲッコウカフェ(Gecko Cafe)のオーナーに声をかけられて個展をしました。正直、福井県には、絵に興味を持ってくれる人はいないと思っていましたから、売れたときは驚きました。私もアーティストの作品にお金を払う経験をしたことがなかったので、売れたことへの実感がなかったです。ゲッコウカフェではオーナーの理想に触れることができること、オーナーのお客様への敬意(リスペクト)があるからこそ販売が成り立ったのでしょう。そのようなところで私の作品を扱ってもらえて幸せでした。

-ご結婚されて、福井を離れましたが、その後もう一度福井で展覧会をされていますね。

出産して子育てして何もできなくて悩んだところに、地元の方から声をかけられたので、「よし、もう一度やってみよう」と意気込みました。が…

-ですが…!?

正直、育児・家事・似顔絵・切り絵、同時進行で疲れてしまいました。完成までもっていくのが大変だった。ひとつひとつが大変なのにそれを同時ですから。「自分がやりたいことのためにしているのに、何をしているだろう」と迷いが出ました。開催後は、いったん切り絵から離れることを選びました。

切り絵と行燈 撮影/小林照美

-制作は家族の理解があってこそ。女性でも男性でも、家庭を持つとどうしても天秤になります。制作にかかわる人がぶつかる壁ですけれども、さやかさんはどれかを選択してどれかからか離れて、モチベーションを維持した方だと思いました。

-それでも、今も描かれています。現在の活動を教えてください。

ペットの似顔絵を飼い主の方からオーダーを受けて描く仕事をしています。大切なペットを亡くされた方からの注文もあります。「写真は見られないけど、イラストなら見られる」という方もいらして、喜ばれます。

-制作ツールは変わりましたか?

iPadで描いています。最初は慣れませんでしたねえ。変なところに線が入るし、液晶画面の上でペンは滑るし。紙は私の筆圧を受け止めてくれますが、画面はなかなか。メリットは、修正がしやすく、色が混ざらない、色の調整がしやすいところでしょう。紙で描くより疲れにくく、どんどん描けちゃいます。パステルも使っていますし、似顔絵の制作も続けています。

-SNSで公開している子育て漫画もとても面白いです。久しぶりにお話をすることができて楽しかったです。ありがとうございました。

プロフィール

山橋さやか 略歴
1981 福井県越前市生まれ
2003 玉川大学芸術学科 卒業

インスタグラムで更新中

ペットイラストはぐもふ @hagumohu_nigaoe
やまに かえる @yamani.kaeru

個展
2011 「水紋砂紋」Gecko café(越前市)
2011 「切り絵作品展」いまだて芸術館(越前市)
2018 「花咲く木の下で」ギャラリー叔羅(越前市)

切り絵によるイラスト、店舗装飾などのほか、パステル画による似顔絵などの販売も手がける。現在神奈川県在住。二児の母

現在手掛けているのは、ペットの似顔絵
制作の様子
コロナ禍で会えない祖父母のために孫たちの似顔絵を贈ることも

作家が今表現したいことを、今できることを、今あるツールで魅せる

パステル、切り絵、そしてiPadとツールが違っても、さやかさんらしい、色や線が残っています。ツールが絵を作るのではなく、作家がツールを使ってできるものなのだ、と実感します。使いこなす、のも才能でしょう。さやかさんは今現在の自分が思う自分の表現をできるツールを「使いこなす」ことができる作家さんでした。

それでもやはり、私は切り絵の印象がとても良くて、彼女が思う「疑いようのない線」と「流れるような線」は見ていて気持ちが良いのです。

今は切り絵を手にする制作の場ではないようですが、またいつか新しい表現に取り組む時期になったら、カッターを手にしてほしいと願っています。

この記事を書いた人

SAITO Riko(齊藤理子)

幼い頃から絵が好き、漫画好き、デザイン好き。描く以外の選択肢で美術に携わる道を模索し、企画立案・運営・批評の世界があることを知る。現代美術に興味を持ち、同時代を生きる作家との交流を図る。といっても現代に限らず古典、遺跡、建築など広く浅くかじってしまう美術ヲタク。気になる展覧会や作家がいれば国内外問わずに出かけてしまう。

I have liked drawing since I was young, manga and design. I tried to find a way to be involved in art other than painting, and found that there were ways to be involved in planning, management and criticism. I am interested in modern art and try to interact with contemporary artists. I am an art otaku, however, it is not limited to modern art. I appreciate widely and shallowly in classical literature, remains, and architecture. If there is an exhibition or an artist that interests me, I go anywhere in and outside of Japan.